ICT教育が変える日本の教育の未来 ~一般社団法人 ICT CONNECT 21 会長 赤堀 侃司 先生インタビュー(後編)

ICT教育が変える日本の教育の未来
~一般社団法人 ICT CONNECT 21 会長 赤堀 侃司 先生インタビュー(後編)


一人一台の端末が導入されましたが、ICT教育には多くの課題もあります。そうした課題を解決し、いかに日本の教育を変えていけばよいか、赤堀先生の目指す理想の教育とは。一般社団法人 ICT CONNECT 21 会長 赤堀 侃司先生のインタビューの後編です。


一人一台端末導入後の課題は

Q.いよいよ、ほとんどの小・中学校で一人一台の端末が導入されたのですが、今、現場ではどういった課題があるでしょうか。

まずは高速ネットワークですね。ネットワークが遅いという問題です。学校からインターネットに繋がらないと意味がないのですが、その予算化をしていない自治体もあります。ネットワークはしっかりとストレスのないようにやっていく必要があります。

二点目は自治体(学校)にICTに強い指導主事(担当教員)がいるかどうかだと思うんです。公立学校であれば大体の困りごとは、指導主事のところに行くんですよね。私が関わった所沢市のある指導主事はICTがものすごく強い。もともと強いというより勉強したから強くなったということです。私と打ち合わせしながら、こうなっているんだといろいろ勉強してましたね。
所沢市には何名かそういう先生がいますが、小さい自治体は、そこが難しいかもしれません。でも、担当になる方は、ぜひ頑張ってもらいたいなと思います。なぜかというと、ネットワークもいろいろなアプリも、覚えていけば楽しいからです。そんな難しいものじゃなくて、経験しながら勉強するわけですから。難しいと思っているうちは、やっぱりうまくいかないです。
私は高校教員になった時に、たまたまコンピュータがあってFortranがあって、おもしろくてたまらなかった。おもしろいなと思えれば何の問題もないと思います。そこを乗り越えてもらいたいなと。担当の先生は自分の市町村なり学校なりを、自分の力で高めていくという気持ちを持っていれば、何とかなります。


失敗が前提、まず授業で使ってみよう

三つ目はね、やっぱり授業での活用ですよね。どう使っていいかわからないという話はよく聞きます。いい事例がないので、できませんとかいうのですが、文科省にも実践事例がたくさんありますから、あとはやってみる、それだけだと思っています。失敗することもあるかと思います。ただICTは失敗が前提なんですよ。車も失敗しないとうまく運転できるようにならないのと同じですね。でも学校の先生は失敗したくないんです、子どもがいるし、その前で失敗したらみっともないと。
たとえば35人子どもがいたら、1台壊れたりします。うまくいかないことがいっぱいあって、理由がわからないこともたくさんありますよ。でも、それでもいいんだと。
学校の先生が完璧主義だと、35人のうち2台動かなかったとなったら、やめてしまうんですよ。パソコンはしまって、黒板でやりましょうと。不平等だからと。そういう風に平等にしないと子どもの教育がうまくいかないからという文化があるんですよね。
ICT という道具は学校で生まれたものではありません。社会で生まれたもので、社会というのは全員の成功物語はありえません。そういう概念が、学校では無くて、不平等は困りますみたいなことになっています。そこを変えないとうまくいかないだろうと思うんですよね。分からなければ子どもに聞いてもよし、隣同士やってもよし。今日はパソコンをしまって、黒板ですと言った途端におもしろくないわけですから、子どもは。
もちろん先生方はものすごく熱心です。たとえばある小学校では、先生が口と舌を模したぬいぐるみを作って、RとLの違いを説明しているわけです。一人ひとり前に来させて、君は L の舌が違うみたいなことをやってるわけです。ものすごく丁寧で、多分このぬいぐるみを作るのにも苦労したと思いますよ。
でもALT(外国語指導助手)の先生を見ると、クイズをやっているんですよ。要するに楽しければいいんだという考えがあるわけですが、日本の先生はR と L の違いをきっちり教えます。私はアメリカのカリフォルニア大学で教えていたけど、RとLは今でもできないですよと。でもやっぱり文化なんでしょうね。RとLをしっかりと理解させるというその概念、考え方そのものが違います。
英語も道具だしコンピュータも道具だから、壊れる時もあればうまくいかない時もあるし、それほど気にすることないというような文化やギャップがここに出てきていると私は思います。だから気楽にやりませんかと。クイズでもやって楽しくやったら、英語なんてたちどころに覚えます。この前もプログラミングの授業を見学したんですが、ともかく丁寧なんですよ。教えなくていい、ほっておいてもよい、むしろ好きにさせてみた方が良い。失敗させれば覚えるわけだから。
一から丁寧に教えることをやめてみて、とにかく楽しませることに重点を置いてもよいのではないかと思います。これからの時代、子どもは前を向いているし、新しいことが好きですし、少し肩の力を抜いていただきたいなと思いますね。


教育のICTを支えているICT支援員

Q.そういう背景を踏まえると、ICT 支援員の方の役割も重要になってくると思うのですが?

大変重要です。ICT支援員の先生はものすごく努力しています。私にICT支援ができるかと言ったら決して務まらないです。例えば学校によって異なるアプリやソフトがインストールされていたりします。子ども達も先生も、わからなくなったらICT支援員に聞くんですよね。すべてを分かっていないと、とてもできない仕事です。
どうやって勉強しているのか?と聞いたのですが、土日に勉強していますとおっしゃっていましたね。すべてわかっていないと、子どもや先生方のリクエストに応えられない、だからありとあらゆる教育のアプリを試しています、と。スマホもなんでも知っています。この人たちが教育のICTを支えてくれているなと感じます。これだけ勉強されていて、ICT教育を支えているにもかかわらず、薄給という現実もあります。給与面はもう少し改善すべきだとも感じますね。その人たちの犠牲の上で、今のICT教育が成り立っているのはよくない。縁の下の力持ちで、あれほど尊敬できる人材はいないです。たぶん子ども達もICT支援の先生方を尊敬していると思いますよ。


EDIXは展示会・ブースが一番学べるところ

Q.さて、2010年より開催されているEDIXにはどのような印象をお持ちでしょうか。

ここまでの形にされるのにご苦労があったと思いますが、教育分野の本流というイメージですね。ブランドや安心感が教育委員会の先生方にもあるのではないでしょうか。文科省の幹部を案内したことも何度もありましたが、教育業界の方々は必ず見ておくべき展示会だと思います。
今、GIGAスクール構想とオンライン学習がうまくリンクして、教育業界には大きな流れができています。新しい道が開けるなという中で、それをさらに引っ張っていく、そういう展示会であってほしいと期待しています。

それからもうひとつ、展示会場での体験というのは大事だと思っています。私も初めは会場で直接製品やサービスに触れる時間がないので、セミナーだけ参加しようという気持ちがありました。実際、今年もセミナーだけ聞いてみようかなという方もいらっしゃるかと思います。
ところが、ある時にブースで説明してもらったんですが、ものすごくよくわかるんですよね、実際に触ることもできますし。さっきのICT支援員と同じです。ブースにいらっしゃる企業の方々は、多くの知識を持ってらっしゃいます。ちょっとしたことを尋ねただけでも、いろいろなことを教えてくれる、そんなプロが会場にいるわけです。
こんな良いチャンスはないと思ったことが何回もありました。だから、今年は、むしろブースを優先して行きたいですね。ブースで話を聞くと「なるほどな」と、直接聞いて触れることができる。こういう機会は本当に貴重ですね。


これからの教育は「伸ばすこと」「新しいものを生み出すこと」

Q.赤堀先生が目指す教育の未来はどのようなものでしょうか?

ポテンシャルを最大限に引き出せる教育が広がってほしいと思っています。
私はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも関わっているのですが、彼らのポテンシャルってすごいんですよね。なぜすごいのかというと、通常の高等学校とは異なるカリキュラムを実施していて、自分の探究的な学習をさせるというスタイルで、ものすごい伸びているんですね。もともと日本の子供たちは、相当のポテンシャルを持っていると思うんです。今は蓋をしている感じですが。だから蓋をとったらどうかと。ただそうすると、いじめや不登校だとかいろいろなこと起きるからと言われたりもしますが、本当にそうなのかなとも思います。クラウド上で勉強はいつでもどこでもできます。別にそれほどうるさく言わなくても、蓋をしないで伸びる方にもう少し目を向けてはどうかと思います。
だから、これからは伸びるものは伸ばしていこうじゃないかと。すべて同じだと、この世の中は進歩しないことに気づいたはずなので、伸ばす考えをこれからの日本には適用したらどうかと思っています。伸ばすことに目を置いて、苦手なことを頑張れってうめるのではなくて。人間はいいところもあれば、ダメなところもみんな持っています。世に出て、すべてできますなんて人はいないし、そんなもの目指してもおもしろくもないですし、個性をさらに伸ばす教育にしていきたいというのが一点です。

もう一点は、クリエイティブな発想で作るということを推奨する教育になってほしいと思っています。今まで学ぶことが中心でした。それも大事ではあるのですが、SSHは作ることを評価しています。そうしていかないと発展性がないような気がします。今の教育の在り方では、新しいもの作ったところであまり評価されないですよね。SSHや大学を見ていると、新しいものを作り出す力を引っ張っていこうという流れになりつつあるので、こういう取り組みが広がっていってほしいです。

「伸ばすこと」と「新しいものを作り出すこと」この二つを推奨した教育になってほしいと思っています。

教育ほど素晴らしいことはない

Q.最後に、教育関係者の方々に対してメッセージをお願いします。

私は修士を出て、教員になろうと思ってなったのが原点です。振り返ってみると、教育ほど素晴らしいものはないですね。今でももう一度、高校で教えてみたいと思ったりします。今、先生をされている方々は気づいていないかもしれませんが、一番幸せな時を過ごしていると思います。子ども達のために素晴らしい仕事をしているのだと誇りに思ってほしいというのが一番のメッセージです。
二つ目は、殻を破って、新しいものに触れるということにチャレンジしてほしいと思います。教育は保守的で、新しいものには躊躇してしまうという文化がありますが、子どもは未来を向いていて、新しいことが好きで、古いものには興味ないんです。そこにギャップがある。若い世代を育てていくという「教育」に携わっているであれば、新しいものに対して寛容になってほしいと思います。
そういう点でEDIXに来て、いろいろ触れてみることから始めるというのも一つだと思います。

 

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■プロフィール

赤堀 侃司(あかほりかんじ)

静岡県高等学校教諭、東京学芸大学講師・助教授、東京工業大学助教授・教授、白鷗大学教育学部長・教授、を経て、現在、東京工業大学名誉教授、(一社)ICT CONNECT 21会長、工学博士など。専門は、教育工学。主な著書は、「タブレットは紙に勝てるのか」(ジャムハウス、2014)、「デジタルで教育は変わるか」(ジャムハウス、2016)、「親が知っておきたい学校教育のこと 1」(ジャムハウス、2017)、「プログラミング教育の考え方とすぐに使える教材集」(ジャムハウス、2018)、「AI時代を生きる子どもたちの資質・能力」(ジャムハウス、2019)など。


EDIXとは
学校・教育機関、企業の人事・研修部門など教育に関わる方に向けた日本最大の展示会です。
年に2回、東京・関西で開催をしています。
 

来場に興味のある方は下記から詳細をご確認ください。