デジタルシティズンシップとは?情報モラル教育との違いや実践事例を紹介
デジタルシティズンシップとは?情報モラル教育との違いや実践事例を紹介
近年、学校を含めて社会全体のデジタル化が急速に進んでおり、メリットが増える一方で問題点も浮き彫りになってきています。
さらに、インターネットを使う上でのモラル教育だけではなく、デジタル技術を通じた積極的な社会参加についての教育も求められ始めました。
そこで本記事では、デジタルシティズンシップの概要、デジタルシティズンシップ教育、国や自治体の取り組み事例などを紹介します。
デジタルシティズンシップとは
デジタルシティズンシップとは、インターネットやSNSなどのデジタル技術を活用して社会に積極的に関与し、同時に責任ある行動を取る能力を指します。
単にネット上のルールやマナーを守るだけでなく、オンラインで自分の意見を発信したり、社会課題の解決に参加したりする主体的な姿勢も含まれるのが特徴です。
欧州評議会の「Digital Citizenship Education Trainers' Pack」(2020年)では、デジタルシティズンシップを「デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し、参加する能力」と定義しており、世界規模でその重要性が認識されています。
さらに、この能力は学校のICTや情報の授業だけで完結するものではなく、家庭や地域社会をはじめとするあらゆる場で育まれるべきスキルです。
たとえば、家庭では子どもがスマートフォンやタブレットを利用する際のルールづくりを一緒に考え、地域社会では公共施設のオンラインサービスを活用してイベントや防災情報を共有するなど、生活の至るところでデジタルシティズンシップを実践できます。
こうした視点に立つと、デジタルシティズンシップは単なる「ネットリテラシー」の延長ではなく、社会をより良くするための「市民力」を育む概念だと言えるでしょう。
デジタルシティズンシップが注目される背景
デジタルシティズンシップが近年注目を集める背景には、社会のデジタル化が急速に進展している現状があります。
特に、コロナ禍でオンライン授業やリモートワークが広がり、コミュニケーションの多くがオンラインベースに移行する中で、ネット上での振る舞いや情報の扱い方がその人の社会的評価や学習成果に直結するケースが増えました。
こうした事情から、従来の「情報モラル」にとどまらず、ICTを積極的に活用しながら責任ある行動を取れる人材の育成が求められるようになっています。
日本においては、GIGAスクール構想の推進によって児童生徒一人ひとりに端末が配備されたことで、子どもたちが日常的にデジタル機器を活用する環境が一気に整いました。
しかし、端末や通信環境が整備されても、それらを使ってどんな学習や社会参加が可能になるかを明確にし、トラブルを未然に防ぎつつ有益な活動を広げていくための教育が不可欠です。
ここで重要となるのが「デジタルシティズンシップ教育」へのシフトであり、世界的にも欧州評議会やUNESCOなどの国際機関が、その推進の必要性を繰り返し提唱しています。
このような潮流は学校や家庭だけにとどまらず、企業の人材育成や地域連携の場面でも注目されています。SNSマーケティングやオンラインイベントの開催など、デジタル技術を駆使した活動が増えるほど、ネットリテラシーをしっかり身につけた上で建設的に意見交換や情報発信ができる人材が重宝されるでしょう。
デジタルシティズンシップ教育とは
デジタルシティズンシップ教育とは、デジタル社会において責任ある市民として行動し、積極的に社会参加をするための能力を育む教育を指します。
欧州評議会の「Digital Citizenship Education Trainers' Pack」(2020年)では、デジタルシティズンシップ教育を「優れたデジタル市民となるために必要なスキルや態度を身につけることを目的とする教育」と定義されており、日本でもこの考え方が広がりつつあります。
具体的には、オンライン上のコミュニケーションで他者を尊重した言葉を使う、情報を正しく評価して自分なりの考えを形成する、デジタル機器を使って地域や社会の課題解決に貢献する、といった行動ができる力を育むことが重要です。
この教育は学校だけで完結するものではなく、家庭や地域社会全体で取り組む必要があります。たとえば、保護者がSNSの正しい使い方や端末のセキュリティ設定を子どもと一緒に考えたり、地域の公民館や図書館がICT講習会を開催して住民のネットリテラシーを底上げしたりする取り組みが考えられます。
デジタルシティズンシップと情報モラルの違い
デジタルシティズンシップと情報モラルには重なる部分もありますが、その目的とアプローチに大きな違いがあります。
情報モラル教育は、主にインターネットの危険性を認識し、トラブルや犯罪に巻き込まれないためのルールとマナーを学ぶことに重点を置いてきました。たとえば、個人情報の流出を防ぐための注意点や、著作権侵害をしないためのルールなどが中心です。
こうした視点は重要ですが、あくまで「リスク回避」「消極的防止」を目的としている側面が強いと言えます。
一方で、デジタルシティズンシップ教育は、デジタル技術を用いて社会に積極的に参加し、自分自身の考えを発信しながら責任ある行動を取るところまでを視野に入れています。
たとえば、SNSを利用して地域の課題解決に取り組んだり、オンライン上のコミュニティに参加して議論を深めたりするなど、デジタル技術を前向きに活かす姿勢を重視します。
そのため、情報モラル教育が「ネットのリスクやネガティブな側面」を中心に扱うのに対し、デジタルシティズンシップ教育は「デジタルを活用して社会参画を促す」という積極的な目的を含む点が大きな特徴です。
もちろん、これらは対立する概念ではなく、むしろ互いを補完する関係にあります。まずはリスクを理解し安全面を確保することが前提となり、その上で自己実現や社会貢献に繋げる力を伸ばしていくのが理想的な教育の形です。
そのため、学校現場でも情報モラルとデジタルシティズンシップを切り分けるのではなく、一連の流れとして捉え、授業やアクティビティを組み立てるケースが増えています。
デジタルシティズンシップとGIGAスクール構想の関係
GIGAスクール構想は、児童生徒一人ひとりに学習用端末を配備し、校内の通信ネットワークを整える大規模な取り組みとして全国の教育現場で導入が進められています。
これによって、子どもたちは授業中だけでなく、家庭学習や校外学習の際にも積極的にデジタル機器を利用し、情報検索や意見交換などを行いやすくなりました。
しかし、端末と通信環境が整っただけでは、ネット上のトラブルや誹謗中傷、フェイクニュースへの対処が不十分になりがちです。
児童生徒が端末を使って学ぶ中で、オンライン上のマナーや情報の信用性を見極めるリテラシー、発信内容の社会的影響を考慮する態度などを同時に身につけられるように指導する必要があります。言い換えれば、単なる端末操作の指導に留まらず、学習活動と社会参加を総合的にデザインすることが求められるでしょう。
文部科学省や内閣府もこうした観点から、GIGAスクール構想とデジタルシティズンシップの融合を重視しています。
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デジタルシティズンシップ教育に対する国の取り組み
デジタル社会への対応が急務となる中、日本政府は総務省・文部科学省・内閣府などが連携して、デジタルシティズンシップ教育の推進に乗り出しています。
各省庁が担う役割は異なりますが、ICTリテラシー向上や教育現場での学習指導要領への反映などを軸にして、社会全体のデジタル活用を底上げしようとする方向性は共通しています。
たとえば、総務省は家庭や地域社会での学習機会を充実させる施策を打ち出しており、文部科学省は学校教育の中でデジタルシティズンシップを浸透させるための教材開発やガイドライン整備を進めています。
内閣府はさらに広い観点から、Society 5.0の実現や次期学習指導要領の改訂検討などと結びつけ、デジタルシティズンシップ教育を大局的に推進する動きを見せています。
ここからは、各省庁の取り組みを具体的に紹介します。
総務省の取り組み
総務省は、ICTを活用した社会インフラの整備や、国民全体のリテラシー向上を担当する省庁として、デジタルシティズンシップに関する重要な役割を果たしています。
具体的には「ICT活用のためのリテラシー向上に関する検討会」を開催し、幅広いステークホルダーから意見を集め、ネットを取り巻くリスクや教育課題を洗い出す作業を進めてきました。
また、家庭でのデジタルシティズンシップ教育を支援するため「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ〜実践ガイドブック〜」を作成し公開しています。
このガイドブックでは、保護者と子どもが一緒に学べるワークシートや、SNS利用のルールづくりに役立つ具体的な事例が紹介されており、全国の教育委員会や学校で活用が進められています。
文部科学省の取り組み
文部科学省は、学校教育の観点からデジタルシティズンシップを推進しています。特にGIGAスクール構想を背景に、全国の小中学校で端末配備が進む中、情報活用能力とともに社会参加の視点を育む教育の重要性を強調しています。
有識者会議などでも、児童生徒がオンラインコミュニケーションを安全かつ建設的に行えるように指導内容を充実させるべきだという方針が示されています。
実際に、文部科学省は「安心安全な利活用とデジタル・シティズンシップ教育」に関する資料を公開し、1人1台端末の整備に伴う具体的な授業例や教員研修の方向性を提示しています。
また、学習指導要領の改訂の際に、情報活用能力を横断的な学習の基盤と位置づけるなど、カリキュラムへの組み込みも加速化しています。
こうした動きを受け、自治体の教育委員会や学校現場では、情報モラルとデジタルシティズンシップを一体的に扱うプログラムを作るケースが増えています。
内閣府の取り組み
内閣府は、青少年の健全育成やSociety 5.0の実現に向けた総合政策を担う立場として、デジタルシティズンシップ教育を重要視しています。
特に、次期学習指導要領の改訂検討では、子どもたちが高度情報社会の中で主体的に学び、創造的に活動する力をいかに育成するかが大きなテーマとなっています。そこに欠かせない要素として、デジタルシティズンシップの観点が取り込まれる見通しです。
また、内閣府は「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」を通じて、AIやIoTを活用できる専門人材の育成だけでなく、市民としての情報活用や社会参画を支える教育基盤の強化を謳っています。
これは、子どもたちが未来の社会でネットリテラシーを発揮し、様々な場面でイノベーションに貢献できるようにする狙いがあると同時に、トラブルの少ない健全なデジタル空間を作り上げるという意味でも極めて重要です。
デジタルシティズンシップ教育の6つのテーマ
総務省が公開している「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ〜実践ガイドブック〜」では、デジタルシティズンシップを培うために6つのテーマが設定されています。
- メディアバランスとウェルビーイング
- 対人関係とコミュニケーション
- デジタル足あととアイデンティティ
- セキュリティとプライバシー
- ニュースメディアリテラシー
- ネットいじめ・もめごと・ヘイトスピーチ
これらは小中学生の保護者向けを想定した内容ですが、幅広い世代にとっても学習の指針となるポイントが多く含まれています。
デジタル社会を生きるうえで必要とされる基本的なリテラシーだけでなく、自分を取り巻くコミュニティや社会との関係をどう築いていくかを意識する視点が示されているのが特徴です。
メディアバランスとウェルビーイング
デジタルメディアを利用する時間と日常生活とのバランスを保ち、心身の健康を維持することの大切さを学びます。
スマートフォンやタブレットに長時間触れ続けると、目の疲れや睡眠不足、運動不足などさまざまな弊害が出る可能性があります。
特に、子どもは自制心が十分でないケースも多いため、保護者と一緒に「何時以降は端末を使わない」「週末はデジタル断食をしてみる」といった具体的なルールを設けるのも有効です。
また、オンライン活動に偏りすぎず、オフラインの趣味や友人との直接的な交流も大切にすることで心身ともに健やかな生活を送ることができます。
過度なスクリーンタイムは集中力の低下やストレス増加を招く恐れがあり、その結果として学習意欲や人間関係にも影響が及ぶことが指摘されています。
デジタルの利便性を活かしつつ、生活全体を見通したセルフマネジメント能力を高めるのが狙いです。
対人関係とコミュニケーション
オンライン上でのコミュニケーションが普及する一方、SNSやチャットツールでは相手の表情や声のトーンが伝わりにくい分、ちょっとした言葉遣いで摩擦が起こりやすいのが実情です。
ここでは、ネット上での礼儀や相手を尊重した表現の大切さを学ぶと同時に、ネットいじめの兆候を早期に察知し、トラブルが深刻化する前に対処するスキルを身につけることが求められます。
具体的には、投稿前に相手の受け取り方を想像する習慣をつける、誤解が生じた場合は速やかに訂正や謝罪を行うなど、オフラインでも通用する基礎的なコミュニケーション能力をオンラインに適用することがポイントです。
さらに、多様な意見や背景を尊重する態度を育み、建設的な議論や情報共有につなげられるように指導することで、子どもたちはネット上の人間関係をより良いものに発展できるようになります。
デジタル足あととアイデンティティ
インターネットに一度投稿した情報は、削除してもどこかに残り続ける可能性があります。これが「デジタル足あと」と呼ばれるもので、SNSやブログ、動画共有サイトなどさまざまな場所に痕跡が蓄積していきます。
身近な例では、軽い気持ちで投稿した画像やコメントが、後になって本人の評判に影響を与えるケースが増えている点が挙げられます。
そこで、どんな情報を共有するかを事前に考え、プライバシー設定を適切に行うことが重要になります。
また、オンライン上の自己表現は現実世界の自分と連動しているため、過度にキャラクターを演じたり、炎上しそうなテーマに安易に首を突っ込んだりすることは大きなリスクを伴う可能性があります。
自分が発信した言葉や写真が将来どのような影響を及ぼすのか考えられるようになることで、デジタル社会でのアイデンティティ形成がより健全なものになるでしょう。
セキュリティとプライバシー
ネットを利用する上で不可欠なのが、情報漏洩の防止や不正アクセス対策をはじめとするセキュリティ知識です。
安全なパスワードの作り方や定期的な変更、怪しいリンクや添付ファイルを開かない慎重さなど、基本的な対策を子どものうちから身につけると、大人になってからも役立ちます。
併せて、OSやアプリのセキュリティパッチを更新する習慣や、パブリックWi-Fiの安全性を見極める力も身につけておくと安心です。
プライバシーの保護については、SNSの公開範囲を細かく設定したり、位置情報をむやみに共有しないといった点が重要となります。子どもが自分の住所や学校名、家族構成をネット上で簡単に明かしてしまうと、犯罪に巻き込まれるリスクが高まります。
セキュリティとプライバシーは「個人を守る防御」だけでなく、他者への配慮にも繋がるため、学校や家庭でも優先的に学ぶべきテーマです。
ニュースメディアリテラシー
オンライン上には、真偽不明の情報や根拠に乏しい噂があふれています。このため、情報を受け取った際に「どのメディアが発信しているのか」「根拠は何か」を確認し、信頼度を評価するニュースメディアリテラシーが欠かせません。
特に、子どもは見出しだけを読んで内容を鵜呑みにしてしまいがちなので、ファクトチェックや複数のソースを比較する習慣を身につけることが大切です。
また、デマ情報がSNSで拡散されると社会全体が混乱に陥る可能性もあります。本人に悪意はなくても、根拠のない情報を拡散してしまうと多くの人を誤解させる恐れがあるため、情報を共有する責任感を育む必要があります。
こうした学びは、一人ひとりが自分の頭で考えて判断し、デジタル社会の中で正しく行動するための基盤となるでしょう。
ネットいじめ・もめごと・ヘイトスピーチ
SNSやオンラインゲームのチャットなどをめぐって、ネットいじめやトラブルが深刻化するケースが増えています。匿名性や拡散力の高さゆえに、一度起こった対立が大きく燃え広がることもあり、被害者が強い精神的ダメージを受ける恐れがあります。
このテーマでは、ネットいじめの兆候を見極めるポイントや、もし当事者・傍観者になった場合の適切な対処法を学ぶことが重要です。
さらに、特定の個人や集団に対する差別・偏見を助長するヘイトスピーチは、社会の分断を招くだけでなく、人権を侵害する行為として問題視されています。
子どもたちには、こうした差別的表現に加担しないためのリテラシーと、見かけたときに大人や関係機関に相談・通報する知識を教える必要があります。冷静な対話や報告手順を身につければ、オンライン空間でも健全なコミュニケーションを保つことが可能になるでしょう。
デジタルシティズンシップ教育の実践例・事例
全国の自治体や教育機関で、GIGAスクール構想の端末を活用しながらデジタルシティズンシップ教育を具体化する動きが活発化しています。
ここでは、以下の5つの自治体を例に、その実践内容や取り組みのポイントを紹介します。
- 東京都武蔵野市
- 埼玉県戸田市
- 熊本県高森町
- 大阪府吹田市
- 岐阜県岐阜市
それぞれの地域特性や学校規模に合わせて、授業の設計や保護者向け啓発活動を展開し、成果や課題を共有しているのが特徴です。
こうした先進事例を相互に学び合うことで、日本全体の教育水準を底上げする可能性が期待できるでしょう。
東京都武蔵野市
武蔵野市では、教職員がGIGAスクール端末を実際の授業でどう活用しているかを、複数の事例を通じて紹介しています。
算数や国語といった既存の教科内容に端末を組み合わせるものから、情報活用能力やプログラミング的思考を育む取り組みまで、多彩なアイデアが並びます。
たとえば、グループ学習で資料を共有しながら課題解決を進めたり、オンラインホワイトボードを使って意見を集約し、互いの考えを深める方法が提示されています。また、思考力や表現力を高めるために、児童生徒同士が制作物を発表し合う授業形態を積極的に取り入れている点も特徴的です。
こうした実践では、デジタルシティズンシップの視点から、学習者が端末を安全に使うためのルールや、著作権意識を身につける指導も同時に行われています。
さらに保護者や地域との連携を図りながら、オンラインでの情報発信のあり方や個人情報の管理方法についても学習機会を設けることで、学習者が社会的責任を認識しながら端末を活用できるよう支援している点にも注目です。
埼玉県戸田市
戸田市では、GIGAスクール構想とデジタルシティズンシップ教育の一体的な推進方針を打ち出しています。
1人1台端末の普及に伴い、児童生徒が日常的にデジタル機器を用いる学習環境が整備されており、端末操作だけでなくオンライン上での責任ある振る舞いを学ぶ仕組みが明示されているのが特徴です。
特に「ICTを活用した授業の進め方」だけでなく、「SNSやチャットツールで発言するときのマナー」や「情報収集の際の引用ルール」などを体系的に教える方策が検討されています。
また、学年別に具体的な学習指標を設定することで、低学年から段階を踏んでリテラシーを身につけるカリキュラムを強化する意図が示されています。
たとえば、低学年では端末を大切に扱うことや基本的な文字入力の練習を中心とし、中学年から高学年にかけては情報の評価や発信といったより高度な活用へステップアップさせる構造が組み込まれています。
こうした流れの中で、トラブルを未然に防ぎながら、自発的に社会と関わる積極性を育むデジタルシティズンシップ教育が実現しやすくなると期待されており、教育委員会が一丸となって具体的な実践モデルを検討している点が注目されています。
熊本県高森町
熊本県高森町では、町全体が一体となってGIGA端末を活用する実践が進められています。
同町では、山あいの地域特性を逆手に取り、少人数の学校だからこそ可能な濃密な学習体験を生かしながら、オンラインで遠隔地との交流や情報交換を行う授業を積極的に実践しているのが大きな特徴です。
たとえば、地元の自然や文化をテーマにしたプロジェクトで、児童生徒がタブレットを使って動画や写真を撮影し、それらを整理・編集して外部に向けて情報発信する取り組みが報告されています。
このように、自分たちの住む地域の魅力を多角的に調べ、その成果をICTを通じて他地域に発信する学習体験を重ねることで、子どもたちはデジタルリテラシーだけでなく「社会の一員として発信する責任感」も同時に身につけている点が強調されています。
また、教員だけでなく行政や地域住民、外部専門家との連携が盛んなため、端末を使ったプロジェクトベース学習がより深みを増しているのも特徴です。こうした取り組みは地域全体の活性化とも結びつき、デジタルシティズンシップの理念が日常生活の中で具体的な形を取って示されている良い事例と言えるでしょう。
参考:文部科学省「熊本県高森町の実践報告 町を挙げて取り組むGIGA端末の活用とその工夫 リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.4」
大阪府吹田市
大阪府吹田市は、市全体で子どもたちのデジタルリテラシーを強化しています。行政と教育委員会の連携を基盤に、保護者や地域社会と協力して施策を推進している点が特徴です。
具体例としては、保護者を対象としたSNS講座や学習会の開催、教員向け研修でネットいじめや誹謗中傷への対応方法を学ぶプログラムなどが挙げられます。
こうした取り組みを通じて、子どもがトラブルに直面する前に相談できる体制を整え、オンライン環境を正しく活用するためのマナーやモラルを教育全体で支えています。
また、授業の中でも、端末を活用したコミュニケーションを実践しながら、情報発信や意見交換のスキルを培う場面が増えています。
同市では、学力向上と同時に「ネット社会で生きる力」を伸ばす方策を積極的に模索しており、行政・教育機関・地域・保護者が一丸となった体制が市の大きな強みとなっています。
岐阜県岐阜市
岐阜県岐阜市では、GIGAスクール構想による端末活用の具体的方針や授業デザインの方向性を示しています。
単に端末を導入するだけでなく、児童生徒がオンラインで調べ学習やプレゼンテーションを行う際の著作権ルールや発信時の配慮など、より高度な情報モラル教育を実践する必要があると明記されています。
特に、授業のプロセスにおいて情報の出所を確認し、引用文献を明示する姿勢を育むことを重視しており、これにより生徒たちは早い段階から学術的リテラシーとデジタルシティズンシップを同時に身につける環境に触れることができます。
また、家庭と学校が連携し、保護者向けに端末の使い方やネットトラブル防止のポイントを共有する仕組みづくりが進んでいるのも大きな特徴といえるでしょう。
こうした総合的な取り組みにより、岐阜市は「学びの質を高めるICT活用」と「安全・責任あるデジタルリテラシーの醸成」を両立させる方針を打ち出しており、今後の学習モデルとしても注目が集まっています。
まとめ:今後のデジタルシティズンシップ教育に求められること
デジタルシティズンシップ教育は、学校や教育委員会の取り組みに留まらず、家庭・地域・企業・大学など社会全体が協力し合いながら進めていくことが欠かせません。
具体的には、教員向けの専門研修をさらに充実させて「デジタル技術を活用した教育デザイン」のノウハウを広めたり、公民館や図書館など地域の学習拠点を活かして、保護者や一般市民がICTリテラシーを学べる場を増やす工夫が考えられます。
また、学校図書館の機能を拡張し、電子書籍やオンライン資料を使った探究学習やメディアリテラシー教育を強化するアプローチも期待されています。
評価と認証の仕組みを作り、学習者がデジタルシティズンシップ教育を受けて身につけた能力を客観的に示すことができれば、継続的な学習や社会全体の意識向上に大きく役立つでしょう。
さらに、SNSトラブルやネットいじめを防ぐには、トラブルの芽を早期に察知して適切に対処する相談体制や通報制度が必要です。保護者と学校、地域の青少年団体などが連携して、子どもが気軽に相談できる環境を整えれば、デジタルシティズンシップ教育と合わせて問題が深刻化する前に手を打つことが可能になります。
デジタル技術が社会のあり方を大きく変えていく時代だからこそ、安心・安全に利用するだけでなく、自分たちの意思と責任でより良い社会を作っていく素養が不可欠です。
デジタルシティズンシップ教育は、まさにそのための基盤と言えます。学校現場にとどまらず、多様なセクターが共同歩調を取り、学習プログラムの開発と実践を継続的に進めることで、未来を担う世代がデジタル社会の主役として活躍する力を育むことができるでしょう。
展示会へ参加してみよう
最新の情報や新しい機器を効率的に集めたいと考えているなら、教育関連の展示会に足を運ぶことは極めて効果的です。社会的な枠組みとの兼ね合いでどのようなサービス・仕組みがあるかを知る機会としても適しています。
特に、学校教育や企業向け研修部門を対象とした学習支援技術や教材の動向は、インターネット上の情報だけでは分からない「実際に触れてみないと分からない部分」が多く存在します。
こうした点を補う意味でも、現場の専門家や企業担当者と直接対話しながら製品を試せる展示会は、実践的な知識を得る好機となるでしょう。
近年はハードウェアだけでなく、オンライン学習プラットフォームやAIを用いたアプリケーションまで、ICTの進化は想像以上のスピードで進んでいます。そういった最先端のサービスが一堂に集まる場所こそが展示会であり、視察を通じて教育現場の課題と技術をどう結びつけられるか、具体的なアイデアを得やすいのが大きな魅力です。
中でも「EDIX(エディックス)」は、国内最大級の教育関連展示会として知られています。学校のICT導入を支援するベンダーや、教材メーカー、研修プログラムを開発している企業など、幅広い出展者が集結し、来場者とのコミュニケーションを通じてさまざまなソリューションを提案しているのが特徴です。
たとえば、先進事例をもとにしたカンファレンスやセミナーを聴講することで、他校や他社がデジタルシティズンシップ教育をどのように展開しているかを直接学べる機会も得られるでしょう。
【出展社・来場者募集中!】
日本最大級の教育分野の展示会
【記事監修者】
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。
EDIXとは
学校・教育機関、企業の人事・研修部門など教育に関わる方に向けた日本最大の展示会です。
年に2回、東京・関西で開催をしています。
来場に興味のある方は下記から詳細をご確認ください。