学校教育のDXとは?メリットや課題、導入事例を紹介

学校教育のDXとは?メリットや課題、導入事例を紹介


文部科学省のGIGAスクール構想をはじめ、近年、教育現場でのデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。

しかし、教育分野におけるDXについて、わかるようでわからない側面も少なくありません。

教育DXは教育全般を変革するためにも重要な戦略です。その内容を知っておくことで、日々の教育の手助けにもなるでしょう。

そこで本記事では、教育DXの概要とメリット、教育DXの課題、導入事例などについて解説します。


教育DXとは

教育DXとは、デジタル技術やデータを駆使して、学習の方法、教育手法、教職員の業務など、学校教育の全般にわたる変革を目指す取り組みです。例えば、オンライン授業、デジタル教材、学習管理システム(LMS)の導入などが挙げられます。

デジタル技術の進歩により、個別最適化した学び、教育の選択肢拡大、教職員の負担軽減、授業の質のばらつき解消といったことが可能になり始めています。

また、児童・生徒の学習データ管理も行いやすくなり、分析データを活用することで学習進度や理解度をリアルタイムで把握することも可能です。

教育DXでは、教育のデジタル化を通じて、学びの質と効率を革新的に高めることを目指しています。


教育デジタル化との違い

教育DXとは、単に教育ツールをデジタル化することを超えた、教育のあり方そのものを変革する取り組みです。教育DXの核心は、教育の質そのものを根本から見直し、改善することにあります。

教育ツールをデジタル化しても従来の学習と同じままであれば、DXを実現したとは言えません。

また、教育現場にデジタル技術を導入することで、児童・生徒一人ひとりの学習スタイルや理解度に合わせてカスタマイズされた教育が実現できるようになります。これは、従来の教室での一斉授業では考えられなかったことです。


文部科学省が推進する教育DXのプラン

文部科学省は、教育分野におけるDXを推進するために、具体的なプランを策定しています。

このプランは「初等中等教育」と「高等教育」の二つのセグメントに分けて展開されており、それぞれの教育段階において、デジタル技術を活用した教育の質の向上と効率化を目指しています。

教育DXのプランは、デジタルネイティブ世代に適した教育を提供し、リモート環境での教育の必要性が高まる中、教育現場の変革を促進するための重要な取り組みです。


初等中等教育|GIGAスクール構想

GIGAスクール構想は、すべての児童・生徒に1人1台の端末を提供、校内にネットワークを整備するという取り組みです。

また、ICT端末の安全・安心な活用促進や、遠隔・オンライン教育の推進など、教育のデジタル化を全面的に支援する体制も整備されています。


高等教育|オンラインの強化やAI活用の環境整備

文部科学省が推進する教育DXのプランでは、高等教育におけるオンラインの強化やAIの活用にも重点を置いています。

この取り組みでは、デジタル技術の活用による高等教育の価値の最大化、データサイエンスやAIを扱う能力の育成、そして教育機関の設備を整えてオンライン授業の強化につながっています。

高等教育におけるデジタル化の推進を通じて、学生たちが必要とするスキルや知識を効率的に習得できる環境の整備を進め、将来的に社会で活躍できる人材の育成に繋げることができます。


教育のDX化による学校・教育機関のメリット

DXを推進することで、学校などの教育現場にはさまざまなメリットがあります。中でも以下の2つは、教育現場を大きく変えることができるメリットとして挙げることができます。

  • 子ども一人ひとりに合わせた教育ができる
  • 教員の事務作業負担を減らせる

これら教育DXのメリットを理解することで、より質の高い教育を提供できるようになるでしょう。

また、教育機関の意思決定者などは、DXへの取り組みを積極的に推し進めるためにも、DX化によるメリットを深く知っておくことが大切です。


子ども一人ひとりに合わせた教育ができる

デジタル技術の活用により、児童・生徒の学習データを容易に蓄積・分析できるようになります。

これにより、学習の進捗状況や得意な分野と苦手な分野が明確になり、一人ひとりの児童や生徒に適した「個別最適な学び」が可能になります。これは、従来の一斉授業では実現が難しかったことです。

また、AIなどの最新テクノロジーを活用することで、児童や生徒一人ひとりに最適化された学習内容を提供する「アダプティブラーニング(適応型学習)」も可能になります。

インフラの整備やセキュリティ対策、教育者のITリテラシー向上など、いくつかの課題がありますが、教育DXにより教育現場はより効率的で質の高い教育を提供できるようになるでしょう。


教員の事務作業負担を減らせる

教員の長時間労働や過重労働が社会問題となっている中、デジタル技術の活用は、これらの課題を解決する有効な手段となります。

具体的には、成績管理、出席管理、教材の配布など、従来は手作業で行っていた多くの業務がデジタル化されることで、教職員の時間と労力が削減されます。

その結果、教職員はより教育活動に集中できるようになり、児童や生徒への指導やサポートに多くの時間を割くことができるでしょう。

さらに、教育DXは教師の「ワークライフバランスの改善」にも貢献します。事務作業の効率化により、残業時間の削減が期待でき、教師のストレス軽減やモチベーションの維持・向上につながります。


教育のDX化による子ども・保護者のメリット

教育DXは、教育現場にメリットをもたらすだけでなく、子どもや保護者にもメリットがあります。以下はその代表的なものです。

  • 遠隔でも授業を受けられる
  • 効率的に勉強ができる
  • 特性に合わせた教育が受けられる
  • デジタルスキルが身につきやすい

こうしたメリットを通じて、子どもや保護者からの支持を得られることができれば、DXによる教育改革の取り組みをよりスムーズに進めることができるでしょう。

ここでは、教育のDX化による子どもや保護者へのメリットについて解説します。


遠隔でも授業を受けられる

自宅から一歩も外へ出ることなく授業が受けられるため、体調不良、怪我や病気、精神的不安で学校へ行けなくても授業が受けられます。パンデミックや災害などの発生時にも、安全かつスムーズに学習環境を提供できることも大きなメリットです。

また、地方や離島、海外に住む子どもたちにも、都市部の子どもたちと同じような教育を提供できるため、教育格差の是正にも繋がります。

オンライン授業が普及することで学習の選択肢も広がり、個々の特性に合わせたさまざまな教育が受けやすくなるでしょう。


効率的に勉強ができる

デジタル教科書を活用すれば、児童や生徒はより効率的に学習を進めることができます。タブレット端末やパソコンを使用して教科書を読むことができるだけでなく、音声や視覚情報を通じて教科書の内容をより深く理解しやすくなるでしょう。

例えば、デジタル教科書では、重要なポイントをハイライト表示したり、注釈を加えたりすることが容易です。また、動画、3D画像、VRなどを組み込むことで、学習内容をより鮮明に視覚化し、児童や生徒の理解を深めることが可能になります。

これらの機能は、特に理科や社会など、視覚的な理解が重要な科目において大きなメリットといえます。

さらに、デジタル教科書を活用することで、児童や生徒は自分のペースで学習を進めることができ、必要に応じて特定の箇所を繰り返し学習することが可能です。


特性に合わせた教育が受けられる

児童や生徒一人ひとりの学習記録や試験結果を分析することで、得意分野や苦手分野、習熟度が不足している箇所が明確になります。このデータを活用することで、教育現場は適切なサポートを提供できるようになります。

また、アクセシビリティの観点からも、視覚や聴覚、身体に障害を持つ人にも、それぞれの特性に合った学びを得られます。

保護者にとっても、子どもの学習状況をリアルタイムで把握できることは大きなメリットです。オンラインプラットフォームを通じて、子どもの学習進捗や苦手分野を確認できるため、家庭でのフォローアップがしやすくなります。


デジタルスキルが身につきやすい

デジタルを意識したカリキュラムを早期教育から実施することで、子どもたちはデジタル技術で移り変わる環境や社会に、柔軟に対応できる高度な人材へと成長することができます。

プログラミングやデータ分析など、実際に手を動かして学ぶことで、理論だけでなく実践的なスキルを身につけることもできるでしょう。

デジタルスキルを身につけて、社会の変化にも柔軟に対応できる人材へ育てるには、子どもが主体的に学べるようなデジタル技術を活かした環境作りも大切です。


教育現場におけるDX推進の課題

教育現場においてDXが進むことで得られるメリットは多いですが、DX推進をするためにはいくつか課題もあります。

特に、以下の問題は多くの人たちが懸念している点です。

  • インフラ整備にコストがかかる
  • 情報漏洩リスクがある
  • 教育者のITリテラシーが欠如している

このような課題や問題点について正しく理解し、適切な対策を講じることができれば、教育DXの成功に繋がるでしょう。


インフラ整備にコストがかかる

教育DXを実現するためには、児童・生徒や教職員へデジタル機器の配布、インターネット環境の整備、セキュリティ対策などが必要になります。これらのインフラ整備には工数とコストがかかります。さらに、保守、メンテ、機器更新など継続的なコストも考える必要があります。

このような課題に対処するためには、行政や自治体、ITベンダー、他の教育機関との連携を深め、コスト削減や効率的なインフラ整備の方法を模索することが重要です。


セキュリティリスクがある

オンラインでさまざまな情報をやりとりする都合上、不正アクセスやマルウェアへの感染などのリスクが発生します。児童や生徒、教師、保護者などの個人情報が外部に漏洩すると、教育機関としての信頼を失墜する可能性があります。

こうしたリスクを軽減するためには、セキュリティ対策の強化が不可欠です。例えば、データの暗号化、アクセス権限の厳格な管理、定期的なセキュリティ研修の実施などが挙げられます。

また、児童・生徒や教職員に対して、パスワード管理の重要性やフィッシング詐欺への警戒など、セキュリティ意識を高める教育も必要です。

さらに、教育機関ではセキュリティインシデントが発生した際の対応計画を事前に準備しておくことも重要で、迅速かつ適切な対応を行うことで、被害の拡大を防ぎ、関係者への信頼を維持することができます。


教育者のITリテラシーが欠如している

教育を提供する側のITリテラシーが低いと、質の高いデジタル教育を提供することができません。そのため、教師や事務職員など、教育を提供する側がデジタルツールを使いこなせるようになる必要があります。

研修やセミナーの実施、オンラインリソースの活用、同僚間での知識共有などにより、教育する側のITリテラシーを向上させていきましょう。

例えば、教育現場でのデジタルツールの活用方法を学ぶ研修を定期的に開催することで、教師が新しい技術に対応できるスキルを身につけることができます。


教育現場にDXを導入した事例

ここからは、教育現場でDXを導入している事例を紹介します。

他の学校や教育委員会の取り組みを参考にすることで、教育DXへのアイデアが生まれたり、デジタルツール導入のきっかけになったりするかもしれません。

ヒントになる部分があれば、積極的に真似したり活用したりするとよいでしょう。


愛知県春日井市立高森台中学校

愛知県春日井市立高森台中学校では、教育DXを積極的に推進し、1人1台端末を日常的に活用することで、「教師が教える授業」から「子供主体の授業」へと転換しています。

クラウドを活用することで、子供たちは学び方やツールを選択しながら学習を進めており、これにより生徒一人ひとりが自ら学ぶ力を育てています。

高森台中学校では、「集中させる」「しっかり教える」「つなげて考えさせる」という3つの視点に重点を置き、全教職員が共通の流れで授業づくりを行っています。

例えば、「集中させる」ために実物投影機の活用や授業の流れを提示し、「しっかり教える」ために教科書の見方(構造)を理解させ、「つなげて考えさせる」ために考えを共有し学びを深める取り組みを行っています。

クラウドの活用は「共有」や「参照」がキーワードとなっており、生徒がクラウド上に集めた情報を基に友達と対話をすることで自分の考えを整理しています。

また、クラウド上にある友達の考えを、参照したり共有したりすることで、新たな考えや自分に足りなかった考えを付け足しながら思考する姿が見られています。

参考:文部科学省「愛知県春日井市立高森台中学校:GIGAスクール環境と1人1台端末を活用した”自ら学ぶ”生徒を育成する授業づくり」


神奈川県立希望ケ丘高等学校

神奈川県立希望ケ丘高等学校は、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業の指定校として、課題研究を中核に科学技術人材の育成を目指しています。

全ての教科等の探究的な学習活動でデジタル・ポートフォリオを活用した授業づくりを行っており、1人1台端末を活用することで、生徒主体の授業へと転換しています。

各ツールのメリットやデメリットを生徒自身が考え、自由に選択することで、生徒の主体性を高め、探究的な学習や情報活用能力の育成につながっています。また、クラウド上で生徒の意見を瞬時に把握できるため、教師は授業の展開や机間指導に生かすことができます。

この学校では、紙だけでなく、スマートフォンや1人1台端末などのツールを生徒自身が自由に選択できる授業が展開されており、生徒間のコミュニケーションも活発になっています。

参考:文部科学省「神奈川県立希望ケ丘高等学校:GIGAスクール環境と1人1台端末を活用した教師の授業づくりの原動力」


三重県松阪市教育委員会

三重県松阪市教育委員会では、GIGAスクール構想の推進にあたり、地域や保護者との連携を大切にしています。

1人1台端末の活用を始めた際、教師や子供たち、保護者や地域の人たちが、端末で行う授業についてイメージを持てないことが課題となりました。この課題に対し、松阪市教育委員会は、端末の基礎的な使い方や授業での活用方法をまとめ、事例を共有することから取り組みを始めました。

また、保護者に対しては、端末を導入する目的や、端末を使用した授業のイメージをつかんでもらうための体験会や説明会を積極的に行っています。

特に「まつさかGIGAフェスタ」というイベントでは、子供たちと一緒に大人も参加できるプログラミング体験やタイピングコンテスト、体験授業等を行い、地域の方や保護者に学校での学びの様子を知ってもらう機会となりました。

このような取り組みを通じて、地域や保護者との連携を深め、GIGAスクール構想を推進しています。

参考:文部科学省「保護者や地域の方と「願い」を共有し進める松阪市のGIGAスクール構想」


まとめ:負担にならない範囲から教育DXを進めることが大切

教育現場におけるDX推進は、教育の質を向上させ、児童や生徒たちにより良い学習環境を提供するためにも不可欠です。

しかし、DXを進める過程で、インフラ整備のコスト、情報漏洩のリスク、教育者のITリテラシー不足など、さまざまな課題が存在します。

これらの課題に対処しながらDXを推進するためには、負担にならない範囲から段階的に取り組むことが大切です。

まずは小規模なプロジェクトや試験的な導入から始め、徐々に範囲を広げていくことが効果的で、成功事例や失敗事例を積極的に共有し、他の教育機関との情報交換を行いましょう。

全ての関係者が一体となってDXを推進することで、教育現場における変革の成功が期待できます。


【記事監修者】

補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表北川哲也氏。

2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。


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