学習が定着するラーニングピラミッドとは?教育現場でのメリットや活用ポイントを解説
学習が定着するラーニングピラミッドとは?
教育現場でのメリットや活用ポイントを解説
新しく改訂された学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が求められています。これに関連して、アクティブラーニング(能動的学習)の手法のひとつとしてラーニングピラミッドが注目されています。
しかし、この学習モデルを教育現場で効果的に活用するためには、内容や活用する際のポイント、さらには導入時の注意点などを把握しておくことが大切です。
そこで本記事では、ラーニングピラミッドの内容、教育現場での活用ポイント、導入時の注意点などについて紹介します。
ラーニングピラミッドとは?
ラーニングピラミッドとは「学習方法」と「学習の平均定着率」との関係を表した図のことで、アメリカ国立訓練研究所(NTL)によって研究されたものとされています。しかし、学習方法の分類や数値の根拠となる研究は存在しておらず、その起源はかなり古くに遡ります。
具体的には7つの異なる学習方法を学習の定着率順に並べたもので、以下の段階に分かれています。
- 講義
- 読書
- 視聴覚による学習
- 実演を見る
- 他者と議論する
- 実践による経験・練習
- 他者へ教える
これらの学習方法を、学習内容の定着率が低いものから順に並べるとピラミッド状になることから、ラーニングピラミッドと呼ばれています。ラーニングピラミッドの考え方は、教育現場や自己学習において、より効果的な学習方法を選択するための指針となります。
教育現場でラーニングピラミッドが注目される理由
近年の学習指導要領の改訂により、「主体的・対話的で深い学び」の実現が求められています。これに関連して、アクティブラーニング(能動的学習)の手法のひとつとしてラーニングピラミッドが注目を集めています。
特に、このピラミッドの上位に位置する「他社と議論する」「実践による経験・練習」「他者へ教える」という学習方法は、学習した内容の定着率が高いとされており、アクティブラーニングの代表的な手法です。
教育現場では、グループ討論、自らの体験、他人への教えるといった学習方法を取り入れることで、子どもたちが主体的に学習に参加し、自分の意見を形成する力を育てることができます。
このように、ラーニングピラミッドは、現代の教育が目指す方向性と合致しており、効果的な学習方法の指針となり得ます。
ラーニングピラミッド7つの要素
7つの学習段階の定着率と、学習内容については以下のとおりです。
子どもたちの学習状況に応じて最適な方法を選択することで、学習の効率と効果を大きく高められるため、これら7つの要素を理解することは、教育する側にとっても有益です。
講義を受ける(定着率5%)
教師が話す内容を、大勢の生徒が聞くという形式の学習方法です。受動的に講義を聞くだけでは、情報が長期記憶に定着しにくいため、学習内容の定着率を高めるには限界があるとされています。
定着率を少しでも上げるためには、ノートを取る、復習する、ワークを行うなど、講義の内容を能動的に反復・応用する方法を取り入れることが大切です。ノートを取る行為は、聞いた内容を自分の言葉で書き留めることで理解を深め、復習することで記憶に定着させる効果があります。
さらに、講義内容に関連するワークを実際に手を動かして行うことで、より深い理解につながり、学習効果を高めることができます。
読書する(定着率10%)
自分で本を選び、自分のペースで読み進める読書は、受動的な学習である講義形式と比べて、より能動的に情報を処理することができます。これは、読書に「自分の意志で文字を読む」という要素が含まれているためです。
ただし、読書においてもただ目を通すだけでは不十分で、より深い理解と記憶の定着を目指すためには工夫が必要です。例えば、読む前に「この本から何を学びたいのか」「どのような情報を得たいのか」といった目的を明確にすることで、読書の効果を高めることができます。
視聴覚による学習(定着率20%)
動画や音声を通じて情報を得る学習方法です。読書のような活字を読む学習と比べると、視覚や聴覚からの情報が加わることで、より多くの情報を短時間で吸収でき、記憶に残りやすくなります。
特に、動画教材は視覚的なイメージや実際の動きを伴うため、理解が深まりやすく、抽象的な概念も具体的に捉えやすいです。
また、音声による解説は、読書時には得られないリズムや強調を通じて、重要なポイントを記憶に留めやすくします。
現代では、インターネットの普及により、オンライン教材やYouTubeなどのプラットフォーム上に、さまざまな分野の学習動画が豊富に存在します。これらのリソースを活用することで、自宅にいながらにして、世界中の知識にアクセスできるようになりました。
実演を見る(定着率30%)
視覚や他の感覚を通じて情報を得ることで、学習内容の理解をより深めることができます。
理科の実験の観察や社会科見学など、実際に目の前で行われる活動やプロセスを見ることで、視覚、聴覚、時には嗅覚を通じて情報を受け取ることができ、それによって学習内容をよりリアルに、深く理解できるようになります。
また、実演を見る際の大きなメリットは、ただ情報を受け取るだけでなく、能動的に参加できる機会が多いことです。例えば、実演の途中や終了後に質問をすることで、疑問点を即座に解消できるだけでなく、その過程で自分の理解を深めることができるでしょう。
他者と議論する(定着率50%)
単に情報を受け取るだけではなく、積極的に自分の意見を形成し、他者と共有する過程において、深い学びが得られます。議論を行う上では、テーマや内容に対する事前の理解が必要となりますが、これはよりアクティブな学習姿勢を促すことにつながります。
他者との議論は、自分の考えを整理し言語化する過程で、漠然とした知識を明確な形にすることを助けるだけでなく、異なる視点や意見に触れることで、自分の理解を再考し、新たな知見を得る機会にもなります。
このような相互作用は、学習内容の深い理解と長期記憶に寄与するとともに、批判的思考能力やコミュニケーション能力の向上にもつながるでしょう。
実践による経験・練習(定着率75%)
実践による経験・練習とは、学校の実技科目や現地でのフィールドワークなど、実際に体を動かして経験する活動を指します。理論だけではなく、実際に手を動かし、目で見て、体全体で感じることで、学習内容が深く理解され、長期記憶に残りやすくなります。
実践による学習は、集中力を高め、学習内容に対する印象を強く残します。例えば、科学の実験で実際に化学反応を見たり、生物学で生き物を観察したりすることで、教科書で読むよりも深い理解が得られるでしょう。
また、社会科でのフィールドワークは、実際にその場所を訪れることで、歴史や文化に対する実感を深めることができます。
授業などの座学が中心の学習であっても、実践的な要素を取り入れることは可能です。数学で練習問題を解くことや、外国語学習で実際に外国人と会話をすることなどは、実践による経験として効果的です。
他者へ教える(定着率90%)
自分が学んだ知識や経験を他者に教えることには、学習内容の振り返りになるという特徴があります。
教える行為には、その過程で自分自身がその内容を再度考え直し、情報を整理し、相手に伝わるよう「わかりやすい表現」を追求する必要があるため、単に情報を伝達する以上の意味があります。
もし、教える中で自分の課題やわからない点が見つかった場合、それを解決するために追加の学習を行うことができます。教える活動は、学習者自身の知識の確認と補強、さらには新たな学びへとつながるサイクルを生み出します。
また、他人に教えることは、コミュニケーション能力やプレゼンテーションスキルの向上にも役立つでしょう。
教育現場にラーニングピラミッドを採用するメリット
教育現場でラーニングピラミッドを採用するメリットを理解することは、より効果的な教育方法を選択し、学習者の理解度と学習効果を最大化するために重要です。
主なメリットとしては、以下が挙げられます。
- 子どもの能動性が育つ
- 学習の定着率を判断しやすい
教育現場にラーニングピラミッドを採用することは、より科学的かつ効果的な教育方法を選択し、学習効果を最大化する手助けになるでしょう。
子どもの能動性が育つ
グループディスカッションや実演を通じて、子どもたちは自らの意見を形成し、他者と共有する過程で、自分の考えを整理し、深く理解することができます。
これは、単に知識を受け取るだけの受動的な学習とは異なり、積極的に学ぶことを意味します。このような能動的な学習は、自立性や問題解決能力を高めることにもつながるでしょう。
また、新しい学習指導要領では「主体的・対話的な深い学び」としてアクティブラーニングが推奨されています。ラーニングピラミッドを活用することで、このような教育方針に沿った授業を実現することが可能です。
ラーニングピラミッドを教育現場に取り入れることのメリットは、学習定着率の向上だけでなく、子どもの能動性や対話力を育成することにもあります。これらは、現代社会で求められる重要なスキルであり、ラーニングピラミッドを通じて、生徒たちがこれらの能力を身につけることができるでしょう。
学習の定着率を判断しやすい
ラーニングピラミッドを教育現場で活用することにより、「学習者が今どの段階にいるのか」「学習定着率はどのくらいなのか」をすぐに判断することが可能になります。
また、ラーニングピラミッドを基準とした教育方法を導入することで、教師間の指導方法のバラつきを減らし、より効果的な学習指導を行うことができます。さらに、教師は子どもたちの理解度や進捗状況を把握しやすくなり、必要に応じて個別の指導やサポートを行いやすくなります。
学校授業でラーニングピラミッドを活用するポイント
学校の授業などでラーニングピラミッドを活用する際には、以下のポイントを理解しておきましょう。
- 学習状況を把握する
- 個人へフィードバックをする
- 子ども同士で教え合わせる
- モチベーションを保たせる
これらは、教育の効果を最大化するためにも重要です。
また、ラーニングピラミッドの理論を理解し、子どもの主体性や対話を促進する教育方法を取り入れることで、より質の高い教育ができるようになります。
学習状況を把握する
ラーニングピラミッドは、学習方法に応じた定着率を示しているため、子どもたちの学習の進捗状況や理解度を評価するのに役立ちます。テストの点数だけでなく、学習の進捗状況や課題点を多角的に把握することで、一人ひとりに合わせた指導が可能になります。
「学習に遅れている子はいないか」「次の学習段階に進むための理解度は十分か」といった観点から、定期的に評価を行いましょう。これにより、子どもたちが抱える問題点を早期に発見し、適切なサポートができるようになります。
個人へフィードバックをする
ラーニングピラミッドを活用する際、子ども一人ひとりに合わせたフィードバックやサポートを提供することも重要なポイントです。現在の学習における課題や苦手分野を伝え、効果的な学習方法を提示することで、学びの効率を向上させることができます。
そのためには、学習のデータを適切に管理し、分析することが重要です。学習データを効果的に活用することで、ラーニングピラミッドを参考にした学習指導の効果をより高めることができるでしょう。
子ども同士で教え合わせる
子どもたち同士で「互いに教え合う」機会を設けることは、学習内容の理解を深め、定着率を高める上で非常に効果的です。わかりやすく教えようとする行為は、学びの振り返りや応用につながり、教える側と学ぶ側の両方にメリットがあります。
さらに、教え合いを通じて「お互いの考えを共有する」機会が増えることで、新たな視点の発見や学びの広がりも期待できます。
モチベーションを保たせる
子どもたちのモチベーションを維持することは、教育現場でラーニングピラミッドを活用する際の重要なポイントです。子どもたちの学習意欲が持続するよう、モチベーションを維持する方策を考えましょう。
例えば、子どもの興味を引くための実演を取り入れたり、学習にゲーム要素を導入したりすることで、授業をより面白く、魅力的にすることができます。
さらに、授業での学びを通じて子ども同士の絆が深まることで、お互いにサポートし合う関係が生まれ、学習の進捗を速めることができます。
ラーニングピラミッドを使用するときの注意点
ラーニングピラミッドは、学習方法に応じた定着率を示していますが、その根拠やエビデンスは明確ではありません。そのため、ラーニングピラミッドの数値をそのまま鵜呑みにするのではなく、ひとつの目安として捉えることが重要です。
また、ラーニングピラミッドを過度に重視することで、授業時間が不足したり、子どもたちの学習モチベーションが低下したりする可能性がある点にも留意する必要があります。
ラーニングピラミッドを授業に取り入れる際は、その内容を鵜呑みにするのではなく、子どもたちの実情に合わせて柔軟に活用し、継続的に改善していくことが大切です。
エビデンスが確立されていない
ラーニングピラミッドを教育現場で活用する際には、その根拠となるエビデンスが十分に確立されていないことを理解しておく必要があります。学習方法ごとの定着率については、その出典や根拠に疑問が呈されており、科学的に検証された数値ではないことに留意が必要です。
教育現場でラーニングピラミッドを活用する際は、その メリットと限界を十分に理解した上で、子どもたちに適した学習方法を選択することが求められます。そのためには、子ども一人ひとりのニーズや特性に応じて、柔軟な指導を行うことが大切です。
授業へのモチベーションが下がる
ラーニングピラミッドでは「他者に教える」という学習方法が最も高い定着率を示していますが、これを過度に重視し、授業や読書などの他の学習方法を軽視してしまうと、子どもたちの学習モチベーションが低下する可能性があるため注意が必要です。
授業や読書など従来の学習方法も、子どもたちの理解を深め、知識を広げる上で重要な役割を担っています。
教育現場でラーニングピラミッドを活用する際には、様々な学習方法のバランスを保ち、子どもたちが多角的に学べるように指導することが重要です。
子どもに合わせた指導が必要
ラーニングピラミッドを活用する際には、子ども一人ひとりの特性に合わせた指導が必要であることを忘れてはいけません。子ども一人ひとりの特性や性格、学習の理解度などに合わせて、適宜改善していくことが大切です。
例えば、ラーニングピラミッドでは「他者に教える」という学習方法が高い定着率を示していますが、すべての子どもが他者に教えることで効果的に学べるわけではありません。視聴覚教材を用いた学習や、実践的な体験学習の方が適している子どももいます。
ラーニングピラミッドが示す学習方法と定着率を参考にしつつも、それに固執するのではなく、一人ひとりの反応や進捗状況を注意深く観察し、個別の学習プランを柔軟に調整することが重要です。
まとめ|特定の「型」にこだわらない学習や指導が大切
ラーニングピラミッドに関する議論は、教育現場における学習方法や指導法について新たな視点を提供しています。
しかし、この学習モデルを用いる際には、特定の「型」にこだわりすぎないことが重要です。指導法を一定の型に当てはめてしまうと、教育の質を向上させるための取り組みが、かえって狭義の授業方法や技術の改善に留まってしまう可能性があります。
そのため、子どもたちがインプットした知識を活用し、自らアウトプットできるような学習環境を整えることが重要です。現在の教育現場においては、知識のインプットとアウトプットのバランスを取り、両者を効果的に組み合わせた教育が求められています。
【記事監修者】
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。
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