リカレント教育とは?メリットや補助金・支援制度を紹介
リカレント教育とは?
メリットや補助金・支援制度を紹介
職業人生の長期化、働き方の多様化などにより、社会人になってからの「学び直し」が注目されています。働きながら学びを続けることで、自身の価値を高められるだけでなく、キャリア形成にも役立ちます。
本記事では、働きながら学び続けるリカレント教育について、注目される背景やメリット、受けられる支援制度などについて解説します。
また、企業側としても従業員の学びをサポートすることで、様々なメリットを享受できるでしょう。
リカレント教育とは
リカレント教育とは、学校を卒業してからも学び続けることを意味します。必要に応じて「就労」と「学び」を交互に行うことで、個人のスキルや知識を向上させていくものです。
リスキリングや生涯学習とは異なり、リカレント教育は、職業生活を通じて自己実現を目指し、専門性を深めることに重点を置いています。
リカレント教育の例として、以下のものが挙げられます。
・リタイア後の再就職に備え、新しいプログラミング言語を学ぶ
・キャリアアップを目指してビジネススキルを磨くための外部研修に参加する
このように、リカレント教育は個人が時代の変化に対応し、持続可能なキャリアを築くための重要な手段となっています。
リカレント教育とリスキリングの違い
リカレント教育とリスキリングの違いは、誰が主体となって進めるかにあります。
リカレント教育は「個人が自らの意志」で学び直しをすることにより、学んで得た知識やスキルを仕事やキャリアで活かすことを目的としています。
これに対し、リスキリングは従業員の育成やスキルアップのために「企業や組織が主導する」教育プログラムです。
リスキリングの例としては、次のことが挙げられます。
・デジタル変革に伴い、従業員に新しいソフトウェアの使用方法を教える研修
・ 業務の自動化に向け、社員全員を対象とするトレーニング
リカレント教育が個人の成長と自己実現に焦点を当てるのに対し、リスキリングは組織のニーズに応じて従業員の能力を向上させることに重点を置いています。
リカレント教育と生涯学習の違い
リカレント教育と生涯学習は、ともに「年齢を重ねても学び続ける」ことを指しますが、学び続ける目的と焦点には明確な違いがあります。
リカレント教育は、主に仕事で求められる能力を磨き、キャリアアップや自己実現を目指すための学びです。
一方で、生涯学習は、趣味や興味の探求、社会参加、豊かな人生を送ることを目的とした学びであり、仕事に直接関連しない学びであることが多いです。
生涯学習の例としては、次のものが挙げられます。
・ 絵画や音楽のクラスに参加する
・ 海外旅行をするために新しい言語を学ぶ
リカレント教育が仕事上でのスキルアップや成長を目的としているのに対し、生涯学習は個人の内面的な充実や社会的な参加を目的としています。
リカレント教育が注目される背景
近年、テクノロジーの進歩、特にデジタル化や人工知能(AI)の活用が進んでおり、従来の知識や技術だけでは対応できない新たな課題が生じています。それに伴い、労働者側も新しいスキルや知識が求められるようになりました。
以下のように、社会や労働環境が急激に変化してきており、こうした背景によってリカレント教育が注目されるようになっています。
・職業人生の長期化
・多様化する働き方
・人材不足の解消
・デジタル化による学習機会の増加
・ 技術進歩と産業構造の変化
これらの社会的・労働的背景の変化とリカレント教育の関係について解説します。
職業人生の長期化
平均寿命の延長と人生100年時代の到来に伴い、職業人生も長期化が進んでいます。生涯現役で活躍し続けるためには、自分自身の市場価値を維持もしくは高めるための「学び直し」が不可欠です。
また、定年退職後も新たなキャリアを追求することが求められ、現代社会では一生涯にわたる学習が必須となっています。具体的には、技術の進歩に伴う新しい職種への転職や、異業種への挑戦などが挙げられます。
例えば、IT業界への転職を目指してプログラミングスキルを身につける、または、グローバル化に対応するために語学力を強化するなど、リカレント教育を通じて新たなスキルを習得し、キャリアの幅を広げることが可能です。
職業人生が長期化している現代では、単に長く働き続けるということではなく、変化する社会や技術の進歩に対応し続けるための能力を維持・向上させることが重要です。
リカレント教育は、そのための有効な手段として注目されており、個人と社会の双方にとって価値があるとされています。
多様化する働き方
近年、働き方の多様化が進んでおり、転職や独立をする人も増えてきています。
スキルアップやキャリア形成を目的とした転職が一般的になり、キャリア意識が高い人ほど自ら学びの機会を求めています。また、会社や組織に依存せず独立してキャリア形成をする人も増加しており、立場や年齢に関係なく活躍するためには、スキルや知識を更新し続けることが必要です。
例えば、以下のことが挙げられます。
・管理職を目指してMBA(経営学修士)やリーダーシップ研修に参加する
・フリーランスとして働くためプログラミングやWebデザインを学ぶ
終身雇用とういう働き方が変わってきた現代だからこそ、リカレント教育がより重視されるようになってきています。
人材不足の解消
近年、国内では少子高齢化に伴い労働人口の減少、人材不足が続いている業界も少なくありません。人材確保の競争も激化しているほか、高齢になってから働かなくてはいけないというケースも多くなっています。
特にデジタル人材は特に不足しており、外国人材に頼る状況が続いています。VUCAの時代と言われるような不確実な時代において学び直しができる社会環境を整える必要があるという側面からも、労働人材の不足解消の点においてリカレント教育が注目されています。
技術進歩と産業構造の変化
IoTやビッグデータの活用、人工知能(AI)のような技術革新が進み「第4次産業革命」と呼ばれる時代が到来しています。これらのテクノロジーは、すべての業界においてデジタル化を推進し、仕事の内容や求められるスキルに大きな変化をもたらしています。
例えば、製造業ではAIによる品質管理や生産プロセスの最適化ができるようになり、医療分野ではビッグデータを活用した疾病予測や治療法の開発が進んでいます。また、マーケティングでは、消費者行動を詳細に分析できるようになり、よりパーソナライズされた広告戦略が可能になっています。
こういった変化に適応して、新しい技術を活用できる人材になるためには、働きながらも学び続けられるリカレント教育が不可欠です。
また、従来の知識やスキルだけでは対応できない新たな課題に対応するため、生涯にわたって学び続け、自らのスキルを向上し続ける必要があります。
リカレント教育は、個人が自己実現を果たしながら、変化する産業構造にも適応するための重要な手段となっています。
デジタル化による学習機会の増加
オンラインプラットフォームやeラーニングの普及により、住んでいる場所や就労時間による学習の制限が圧倒的に減りました。
このため、場所や時間に縛られず、自分自身に必要なスキルや知識を身につけることが可能です。
例えば「MOOCs(大規模公開オンライン講座)」を利用すれば、世界中の一流大学や専門家による講義を自宅から受講でき、ビジネス、テクノロジー、言語学習など、多岐にわたる分野について学べます。
デジタル化によって学ぶ機会が増えたことも、リカレント教育が広まっている理由の1つです。
リカレント教育が個人にもたらすメリット
リカレント教育は企業にも個人にもメリットをもたらします。働く個人にとってのメリットとして、以下のものが挙げられます。
・スキルアップや専門性の向上
・モチベーションの向上
・キャリアの選択肢が拡大
・収入のアップ
これらのメリットについて詳しく解説します。
スキルアップや専門性の向上
リカレント教育はスキルアップだけでなく、専門性の高い職業に就くための道を切り開くことが可能です。
例えば、プログラミング言語の習得を通じてソフトウェア開発者への転職を目指すケースや、最新の医療技術に関する研修を受けることで医療分野でのキャリアアップを図るケースが挙げられます。
自らが主体となって学び直しをすることで、単に職業的な成功に繋がるだけでなく、自身のキャリアをより豊かで充実したものにできるでしょう。
モチベーションの向上
リカレント教育によるスキルアップや専門性向上によるキャリア形成は、仕事へのモチベーションを高めることにも役立ちます。また、以下のように学ぶ目的を明確にすることで、学習へのモチベーションも高まるでしょう。
・プログラミングやデータ分析などのデジタルスキルを習得し、IT業界やデータサイエンス分野での新たなキャリアを開拓
・マーケティングや経営管理の知識を深めることで、経営層への昇進や異業種への転職のチャンスを広げる
明確な目的を持ってリカレント教育を継続することは、キャリア形成や学習へのモチベーションを高めることに役立ちます。
キャリアの選択肢が拡大
リカレント教育により、さまざまな業界や職種で働くためのチャンスが生まれ、個人の働き方や生き方の選択肢が増えます。これは、就職や転職においてもより好条件で働ける可能性を高めることにつながります。
例えば、最新の知識や技術を学んで異なる業種への転職もできますし、専門性を高めることで社内昇進や独立も可能です。
・医療や介護分野の資格を取り、医療介護業界へ転職する
・AIやIoTなど最新テクノロジーの知識やスキルを学び、キャリアを積んで独立する
これらは一例ですが、働きながら学びを続けることで自身で選択できるキャリアの幅を広げられるでしょう。
収入のアップ
豊富な知識やスキルを持つ人材は企業にとって非常に価値が高いため、企業としても高給を出してでも採用したいと考えてます。また、企業が求める資格やスキルを取得することで、手当が支給されたり、昇進・昇格に繋がることもあります。
リカレント教育のような学び直しを続けることで、キャリアアップや収入アップにも繋げられるでしょう。
自らの意思で知識やスキルを身につけて自身の市場価値を高めることにより、収入を含めたより良い労働条件を手にいれることが可能です。
リカレント教育の課題や問題点
リカレント教育は多くのメリットをもたらしますが、以下のような課題や問題点もあります。
・時間の確保
・学びにかかる費用
・周囲の理解
働きながら学びを続けるには、これらの課題を解決していく必要があるでしょう。
時間の確保
仕事をしながら新しい知識やスキルを身につけるには、どのように「学ぶ時間を確保するか」が大きな課題となります。企業によっては長時間労働や長い通勤時間が常態化しており、学習のための時間を見つけることすら難しいです。
例えば、学習の時間的な問題として、以下のことが挙げられます。
・勤務後に学習する難しさ:長時間労働をした後のわずかな自由時間で学習に取り組むことは、精神的・身体的な疲労が大きいため困難
・週末の時間確保の問題:週末を利用してリカレント教育に取り組む場合、家族サービスや趣味の時間とのバランスを取ることが課題
こういった学習時間の問題に対しては、オンライン学習の活用、有給休暇の取得などが必要です。そのためには、企業にもリカレント教育を支援するような体制作りが求められるでしょう。
学びにかかる費用
リカレント教育にかかる費用は、学ぶ内容、方法、期間などによって大きく異なりますが、基本的には費用の全てを個人が負担することは難しいケースが多いです。
例えば、社会保険労務士や税理士、看護師などの国家資格を取得するには、専門学校や大学などへ入学して学ぶ必要があります。また、プログラミングやデータサイエンスなどの最新技術をオンラインで学ぶにしても、学習効果が得られやすいようなコースは、一般的に高額な費用がかかります。
費用面の問題でリカレント教育ができないという課題に対処するためには、政府や地方自治体、企業が提供する給付金や助成金制度の情報を積極的に収集し、利用することが重要です。
また、企業によっては費用の一部を負担してくれるケースもあるため、積極的に利用しましょう。
周囲の理解
リカレント教育には周囲の理解が必要です。上司や同僚、さらには家族の理解を得ることは、仕事をしながら学んだり、学び直しをしたりする際に必要不可欠です。
例えば、リカレント教育では以下のようなケースに直面することがあります。
・勤務時間中に研修に参加する
・業務へ支障が出る
・家族サービスの時間が減少する
このような周囲への影響を考えて、リカレント教育を断念せざるを得ないこともあるかもしれません。
周囲の理解を得るには、やはり職場や家庭でのコミュニケーションが鍵となります。
職場においては、リカレント教育のメリットを上司や同僚と共有しつつ、企業文化として学習支援を根付かせる努力も必要です。家庭においては、学習の目的や将来のビジョンを家族と共有することで、理解と協力を求めることが大切になります。
リカレント教育への補助金・支援制度
働きながら学ぶことや、仕事を辞めて学び直しをすることは、学費などの費用面の負担が大きな懸念材料となります。
現在、政府や各省庁などにより、以下の給付金や支援制度などが設けられているため、積極的に活用しましょう。
・教育訓練給付金
・高等職業訓練促進給付金
・キャリアコンサルティング
・公的職業訓練(ハロートレーニング)
・マナビDX
・マナパス
・就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業
これらについて、支援の内容や対象などを紹介します。スキルアップやキャリア形成のための学びをしたいときは、ぜひ参考にしてください。
教育訓練給付金
厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されます。給付の対象となるのは、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類です。
教育訓練給付金の支給申請は、住んでいる地域を管轄しているハローワークでの受付となります。
高等職業訓練促進給付金
母子家庭の母又は父子家庭の父が、看護師や介護福祉士などの資格を取得するために、1年以上養成機関へ通う場合に支給されます。
・支給額:月額100,000円 (市町村民税非課税世帯)、月額70,500円(市町村民税課税世帯)
・支給期間:修業期間の全期間(上限4年)
対象資格の例としては、看護師、介護福祉士、保育士、歯科衛生士、理学療法士、保健師、助産師、シスコシステムズ認定資格、LPI認定資格などがあります。
キャリアコンサルティング
厚生労働省が様式を定めたジョブ・カードを活用して、様々なキャリア形成や学び直しのサポートを無料で受けられます。
予約と日程調整をした後、事前にジョブ・カードを作成します。当日は60分間のキャリアコンサルティングとなっています。
ジョブ・カードについては、専用ページからダウンロード可能です。
公的職業訓練(ハロートレーニング)
希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを、無料で学ぶことができます。雇用保険の非対象者でも、一定の条件のもとで月額10万円の支給を受けながら学ぶことが可能です。
マナビDX
デジタルスキルを学べる講座を紹介しており、中には受講費用の補助が受けられる講座もあります。
マナビDXで紹介されている講座は、経済産業省の審査基準を満たしたDXに関する講座です。基本的な知識やスキルを持っている人向けに、より実践的な講座も用意されています。
マナパス
大学などにおいて学び直しができる講座情報や、学び直し支援制度情報を発信しています。文部科学省から事業委託を受けた「丸善雄松堂株式会社」運営しているポータルサイトです。
分野、資格、給付金や奨学金等の支援、土日・夜間開講など、条件を指定して検索することもできます。
奨学金や教育訓練給付金の対象となる講座も紹介されています。
就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業
就職や転職に繋がる2か月から6か月程度の短期講座が無料で受けられます。受講できる講座には、DX(AI・IoT)、医療・介護、地方創生などがあり、厚生労働省の求職者支援制度と連携して、職業訓練受講給付金を受給しながら学習することも可能です。
なお、本事業は令和3年度に終了しています。
まとめ:リカレント教育の推進は企業にもメリットがある
リカレント教育は個人の知識やスキルアップに役立つだけではなく、リカレント教育を支援する企業側にも以下のメリットをもたらします。
・従業員の満足度向上
・離職率の低下
・生産性の向上
企業が従業員のリカレント教育を支援することで、適切なスキルアップやキャリア形成にも繋がり、優秀な人材が流出してしまうのを未然に防ぐこともできます。
従業員個人としても、企業からサポートを受けながら学び続けることで、企業の競争力強化や利益向上にも貢献できるでしょう。
【記事監修者】
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。
EDIXとは
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