今、求められている特別支援教育の在り方やインクルーシブ教育とは


全国的に特別支援教育を必要とする児童生徒が増加しています。その一方で、特別支援教育に対応できる教員は不足しており、支援体制の見直しも行われております。
この記事では、特別支援教育の現状と文部科学省や有識者会議などで進められている議論や在り方、さらにインクルーシブ教育について解説します。


1.特別支援教育を必要とする児童生徒数の増加

文部科学省が令和3年9月27日に発表している「特別支援教育の充実について」という資料によれば、直近10年間で義務教育段階の児童生徒数は1割減少している中で、特別支援教育を受ける児童生徒数はほぼ倍増。とくに特別支援学級が2.1倍、通級(通級指導教室)による指導が2.5倍と大幅に増加しています。

 

▼特別支援学級在籍者数の推移

※「特別支援教育の充実について」(文部科学省) (https://www.mext.go.jp/content/20211009-mxt_tokubetu02-000018244_02.pdf)を加工して作成

 

▼通級による指導を受けている児童生徒数の推移

※「特別支援教育の充実について」(文部科学省) (https://www.mext.go.jp/content/20211009-mxt_tokubetu02-000018244_02.pdf)を加工して作成

 

このように特別支援教育を必要とする児童生徒数が増加した背景には、発達障害の子供たちが顕在化したからと考えられています。発達障害に対する社会の理解や認識の高まりにより、診断を受ける子供が増えたことと、子供の特性に合わせた学びの環境を求め、保護者が特別支援教育を選択するようなったことが増加の背景にあると言われています。

一方で教員の人材不足は深刻で、特別支援教育に対応ができる先生はさらに不足していると言われています。このような状況の中で、どのようにサポート体制を整えていけばよいかという問題が議論されるようなってきています。


2.特別支援教育を進展させていくためのポイント

文部科学省の「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告」(令和3年1月)では、特別支援教育を進展させていくために、以下の4つのポイントがまとめられています。


・学びの環境の整備と保護者との連携強化

小・中学校では、特別支援学級と通常の学級の子供たちが共に学べたり、通級でも指導を受けられる環境整備を整えること、高校ではそうした環境整備に加え、就労支援の充実させていくことが挙げられています。また、就学前から保護者への情報提供を行うことや、相談や支援といった連携体制を作ることも大切です。


・ICTの活用など教育の質の向上

ICTを活用することによって、各児童生徒の障害に対応した学習が可能となり、一人ひとりの進捗に合わせた個別最適な学びができるというメリットがあります。また、特別支援教育の校務をICT化することで、教員の負担も軽減されます。ただICTを活用するためには、各学校のICT環境の整備も欠かせないので、そうした面も取り組むべき課題のひとつです。


・教師の専門性の向上

すべての教師が発達障害等の特性を踏まえた授業づくりをしていくことや、OJTによる支援体制の充実や学校間の交流を推奨したりすることが考えられています。さらに、現場の教師が参加しやすい研修の充実もポイントです。また、特別支援学校の教職課程の見直しも提言されています。


・関係機関との連携強化と切れ目のない支援

就学前から地域で支援を受けられる体制を整えていくこと、さらには就労やキャリア教育など卒業後の支援計画など、障害を持った生徒児童が取り巻く環境やステップに合わせて、あらゆる機関との連携を図り、切れ目のない支援体制を作っていくことが求められています。また、医療的ケアが必要な子供の場合は、医療機関との連携も必要です。


3.インクルーシブ教育の必要性

特別支援教育を必要とする児童生徒数が増える中で、世界では、障害のある子供たちと障害のない子供たちが一緒に学ぶインクルーシブ教育が広く行われています。

日本ではまだ十分に行われているとは言えず、インクルーシブ教育を実施するように求める動きが出てきています。2022年9月、国連の障害者権利委員会が、障害者権利条約に基づく日本政府への勧告を発出しました。ただちに特別支援教育がなくなるということではありませんが、今後インクルーシブ教育を推進していく方向になっていくことが予想されます。
現状では、教育委員会によって特別支援学級や特別支援学校を勧められることが多いですが、少なくとも本人や保護者が通級で勉強したい場合は、学べる環境は整えていかなければなりません。

一方で、インクルーシブ教育はただ単に障害のある子供たちと障害のない子供たちが一緒に学ぶ場を作ればいいというものではありません。障害のある子が通級で障害を持たない子供たちと学ぶことで苦痛を感じてしまうケースや、障害を持たない子が障害を持つ子をサポートすることを負担に感じてしまうといった例もあります。また、教員の業務負担が多いと言われている中で、インクルーシブ教育を行うとなるとサポートする人員を増やすことは必要不可欠です。
体制づくりという点でも、大きな課題があります。他にも障害のある子が、一緒に学べるためのICTや教室設備などの環境を整えることも必要です。

そうした課題を踏まえて、インクルーシブ教育を考えていかなければなりません。
これまで、特別支援教育は一部の教員だけが向き合っていましたが、すべての学校関係者が受け止めるべきものとして、文部科学省の検討会議では述べられています。まずは、特別支援教育へ理解や体制づくりをしていくことがこれからインクルーシブ教育を進めていくうえでのスタートとなるのではないでしょうか。


4.特別支援教育は、自分らしく生きていくための土台作り

教育環境の整備やICTの活用、教師の専門性の向上に関する取り組み、関連機関との連携強化など、あらゆる面でのサポート体制をつくることは、特別支援教育を受ける児童生徒に学びの選択肢を与えることができます。そして、特別支援教育は一人ひとりが社会的に自立し、自分らしく生活を送るために大きな役割を果たします。

一方で、特別支援教育の取り組みを学校だけで行うには限界があります。現場の教師だけでなく、政府や自治体、教育委員会さらには社会全体が、誰一人取り残さない学びを一緒に考え、実現していくことが必要となっていくでしょう。


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