学校における働き方改革の現状と事例



2018年6月に成立し、2019年4月から順次施行が始まった働き方改革関連法により、多くの企業で働き方の見直しが行われています。もちろん、学校もその例外ではありません。
では学校、先生たち、教職員の働き方改革の現状はどのようになっているのでしょうか。また、働き方改革の実践が進んでいる学校ではどのようなことが行われているのでしょうか。
この記事では学校における働き方改革の現状と事例を解説します。


学校を取り巻く環境は

・長時間労働の常態化

教員の長時間労働は常態化しています。連合総研が2022年9月に発表した『2022 年 教職員の働き方と労働時間の実態に関する調査結果 中間報告』によれば、月の残業時間は123時間となっており、時間外勤務の上限時間である「月 45 時間」を大幅に上回っています。
なぜこのように長時間労働が常態化しているかというと、業務量がそもそも多いからです。教員の業務は授業をすることだけではありません。授業の準備、テストの採点など授業に関わることから、運動会・修学旅行などの行事や保護者会、会議・研修の準備、また児童・生徒だけでなく保護者への対応もかなりの業務量になっています。中学校であれば部活動の指導も非常に大きな業務の1つです。


・教員希望者の減少

教員希望者の減少傾向も深刻な問題です。文部科学省が発表した「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況」によれば、競争率も受験者数も右肩下がりとなっています。特に小学校は競争率が2.7倍と過去最低を記録しています。
その大きな要因が教員の労働環境です。日本若者協議会が行なったアンケート調査によれば、教員希望者が減少した理由として、94%が「長時間労働など過酷な労働環境」と回答しています。
また教員免許を持っている社会人に対して、東洋経済新報社が行ったアンケート調査でも、「教員として働きたくない理由(複数回答)」で約半数の人が「学校で働くのは過酷なイメージだから」としています。
こうした現状を踏まえ、働き方改革を実施して長時間労働を改善できる環境が求められているわけです。


教員の働き方改革の現状

文科省が行った「令和3年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」によれば、「時間外勤務月45時間以下」の割合は令和元年と比較して、小学校で約2~16%程度増加、中学校で、約4~14%程度増加、高等学校で約8~14%程度増加しています。

こうした状況を踏まえると、長時間労働の改善傾向は見られます。ただし「依然として、長時間勤務をしている教師が多数存在している」(文部科学省)のが現状であり、さらに働き方改革を進めていく必要があるでしょう。


教員の働き方改革で重要な6つの対策

こういった動きを受け、文部科学省では働き方改革を進めるべく、2022年1月、全国の教育委員会教育長に「令和3年度教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査結果等に係る留意事項について(通知)」を出しました。ここでは、主に以下6つの対策が上げられています。


・勤務時間管理の徹底

働き方改革を実施するためには、教員の勤務実態を正確に把握する必要があります。勤怠管理システムなどを導入することで、教員が自分で勤務時間を申告する負担も減らせますし、客観的に勤務時間を把握することで労働時間の短縮にも役立ちます。


・ICTの活用による校務の効率化

ICTを活用した校務の効率化により、長時間労働を減らしていくことも重要です。教職員間の連絡だけでなく、保護者とのやりとりもデジタル化することで、教職員だけでなく保護者の負担も減らせます。GIGAスクール構想も前倒しで進められたことにより、児童・生徒とのやりとりはICT機器を使ってできるようになりました。このようにICTを活用することにより、校務の効率化が進められています。


・保護者や地域住民の理解を得るための情報の公開

学校は教員と子供たちだけの場所ではありません。保護者や地域住民にとっても重要な場所になっています。そのため教員だけで働き方改革に取り組むことは難しく、保護者や地域住民の理解を得る必要があります。保護者や地域住民の理解を得るためには、情報公開が必要になります。現状の学校現場がどのようになっているのかだけでなく、学校としてどのような取り組みを行っているのか、働き方改革に関する目標とその結果について公表していく必要があります。そうすることで保護者や地域住民の理解が得られ、働き方改革をよりいっそう前に進められると考えられます。


・学校業務や役割分担の見直し

学校業務や役割分担の見直しも必要となってきます。文部科学省は、これまで学校や教師が行ってきた代表的な業務について「①基本的には学校以外が担うべき業務」「②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」「③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」の3つに分けています。学校業務をこうした3つに分けることで、①については保護者や地域住民の皆さんにお願いし、②は教師以外に依頼、③については負担軽減をしていくように見直しできます。その上で必要ないものや優先順位が低いものは無くしていく必要があるでしょう。


・行事や部活動の見直し

学校行事は子供たちにとって非常に重要で有意義な活動ですが、重要な内容に絞る必要があります。また部活動の指導に関しては、教師が従事しなくてもよいような形を模索していく必要があるでしょう。実際に地域住民や地域の企業と協力して、部活動の指導の一部を委託している学校もあります。


・教員業務支援員の活用

今まで教師が行ってきた業務の一部を担う役割として、教員業務支援員がいます。教員業務支援員を有効に活用することで、教師の負担が減ります。教員の長時間労働を減らすためにも、教員業務支援員の活用が推奨されています。

以上の実践には校長の理解とリーダーシップが重要です。後述する事例にもありますが、校長が働き方改革を進めることで、勤務時間を大幅に改善することが可能になります。


教員の働き方改革の事例

教員の働き方改革として必要な対策について述べてきました。ここでは実際にそうした対策を踏まえて行われている事例を紹介します。


・ICTの活用(岐阜県岐阜市立岐阜中央中学校)

岐阜中央中学校では、コロナ禍をきっかけに活用が進んだICTを生徒の学びのためだけでなく、教員の働き方改革のためにも生かしています。まず取り組んだのが「会議のペーパーレス化」です。Teamsでお知らせを送ったり、Microsoft 365のFormsでアンケート調査を実施しています。
実際に取り組んだ教員によれば、取り組む前は難しいと思っていたことが、実際にやってみると簡単だったとのこと。資料も紙ではないので会議中の変更も容易に行え、直前の情報共有も簡単になったようです。
またアンケートもデータでやり取りしているため、集計が簡単になり業務時間の短縮につながっています。教師間の連絡にもタブレットを使用し、連絡事項の中身が分からなくなったり、回答期限を忘れてしまったりすることが無くなりました。

出典:「改訂版 全国の学校における働き方改革事例集(令和4年2月)」(文部科学省)


・教員業務支援員の活用(千葉県千葉市立加曽利中学校)

加曽利中学校では、教員業務支援員を有効に活用して、教師の負担を軽減しています。具体的な業務内容としては印刷業務やアンケートの集計、教材準備の補助などです。こうした業務を依頼することで、各教師の業務量や時間外勤務が減り、教師が生徒と向き合う時間も増えています。


出典:「改訂版 全国の学校における働き方改革事例集(令和4年2月)」(文部科学省)


・校長のリーダーシップと業務の見直し(千葉県柏市立手賀西小学校)

手賀西小学校では、校長のリーダーシップにより、教職員の在校時間が、市の平均よりも年間約167時間短くなりました。とくに激務である教務主任兼6年担任の超勤時間は年間606時間も減っています。

実施した内容としては、校務分掌を計画的に進められるように年間予定を組んだり、ICTを活用してデジタル化できるものはしたりすることです。デジタル化したことで、30分掛かっていた作業が5分になったとのことです。
それだけでなく、日課表の見直しや、効率的な仕事術の共有も行っています。また管理職が率先して帰ることで、遠慮なく帰宅できる雰囲気を作っているようです。さらに中心となって働き方改革を進める人が複数いることで、改革が進められると校長先生は述べています。

出典:「3年で超勤606時間減の公立小、常態化する激務のどこにメスを入れたのか」(東洋経済education × ICT編集部)


・部活動支援(神奈川県横浜市立菅田中学校)

菅田中学校では、NTT東日本神奈川支社の野球部OB社員による部活動支援が行われています。支援頻度は週2回・2時間程度です。企業として地域貢献の一環として、こうした取り組みには意味があると考えられます。
2022年6月に始まったばかりの取り組みですが、教員の負担を減らす一環として、さらに広がっていくと予想されます。


出典:「教員の働き方改革に寄与する野球部OB社員による中学部活動支援」(NTT東日本グループホームページ)


教員の業務負担の軽減は必要不可欠

教員の長時間労働には改善の傾向が見られますが、それでもまだ教員の負担が多いというのが現状です。負担が多いことで、子供たちに向き合う時間が減り、それは結果として教育の質の低下にもつながっていくでしょう。
こうした現状を改善するためにも、働き方改革をさらに推し進め、教員の負担軽減をしていくことは、教育業界にとって大きな課題の一つです。
 


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