戸田市(埼玉県)の教育、そして日本の教育の未来は ~戸ヶ﨑教育長インタビュー

戸田市(埼玉県)の教育、そして日本の教育の未来は
~戸ヶ﨑教育長インタビュー


(左からEDIX事務局 木村 薫/EDIX事務局 花籠 良/戸田市 戸ヶ﨑勤 教育長/EDIX事務局 神田 百合野)

GIGAスクール構想前から積極的に教育のICT化に取り組み、全国でもトップクラスのICT活用、さらにSTEAM教育の実践も行われている埼玉県戸田市。この取り組みを先頭に立ち、推進してきた戸ヶ﨑教育長にお話を伺いました。


昭和50年代には将来的な1人1台端末環境を確信

中学校で数学の教師として、また、戸田市教育委員会や埼玉県教育委員会で、さらに校長として計38年間勤めまして、教育長になってから今年で8年目に入りました。私が教師になった当時は、一般向けのコンピューターが出始めた頃でマイコンと呼ばれていました。大変高価で、まだパーソナルコンピューター(PC)と呼ばれる前でした。大学の時にはワンボードマイコンという時代でプログラミング言語はマシン語が中心でした。FORTRANやPL/1といったプログラミングも学んでいました。教師になった頃はBASICという言語でソシオメトリックテストを組んだり、成績処理をしたり、授業で回転体のシミュレーションを子供たちに見せたりしていました。

当時は昭和50年代で校内暴力の嵐真っ只中でしたが、これからは間違いなくコンピューターが教育現場で活用される時代になると確信していました。まだノートパソコンという言葉すらありませんでしたが、現在の1人1台環境を予言していました。将来は、間違いなく皆の子供たちがそれを文房具のように使う時代がやってくる、と当時の生徒たちに言っていました。本当はもう少し早く訪れると思っていました。少し遅すぎるくらいですね。


戸田市内の学校では端末は文房具化してきている

一人一台環境を見据えて本格的に着手したのが2016年からです。当時はまだ文部科学省でも3クラスに1クラス分が目標でしたが、本市では1人1台環境を進めていくべきと言い続けていました。
コンセプトは、教師主導の「指導と管理」による「教具的利用」から学習者中心の「学びと愛用」による「文具的活用」へ、でした。これを徐々に進めてきました。そのため、全国的にGIGAスクールが始まる前から、戸田市の学校では早く1人1台にしてほしいとの声がありました。他の市町村では、いきなり端末が配られても使えないという教員の声もあったと聞きますが、戸田市ではそういうことは全然なかったです。
市内の学校では、すでにマストアイテム化、文房具化してきています。特に意識されることなく活用が進んでいますね。

▼戸田市のGIGAスクール構想の様子


戸田市の教育~これから取り組みたいことは

1.一人一台の活用のその先にある「学びの質のさらなる向上」ですね。また、

2.「学校と家庭のシームレスな学びの日常化」、つまりは反転学習や家庭学習のクラウド化です。こういうものもやっていくことによって、学校の学びと家庭での学びがうまく繋がっていかなければなりません。まだここには課題があります。そして、

3.「デジタル・シチズンシップ教育の推進」ですね。今の情報モラル教育から早く脱していかないといけません。さらには、「メディア・リテラシー」も育成していきたいと考えています。さらに、

4.「教育データの利活用」ということで、せっかく ICT を使うわけですから、スタディーログを積極的に活用した個別最適な学びや適切な学習評価なども研究していきたいと思います。今本格的に進めているのが、

5.「STEAM教育の基盤づくり」ということで、昨年、戸田東小学校・中学校に全国初となるSTEAM教育の拠点「STEAM Lab」をインテル社などの御尽力で設置しました。ここでは、ハイスペックPC、3Dプリンター、3Dモデリングソフト、プロ仕様の動画編集ソフトなどを配備していて、子供たちはわくわくしながら、教師の手を借りず、動画編集やイラスト、造形、3Dモデリング等に取り組んでおり、部活動などでも活用されています。そして、

6.「戸田型オルタナティブ教育」ということで、誰一人取り残されない教育です。不登校の子供などにもICTを活用するなどして、手を差し伸べていかなければなりません。データを活用したプッシュ型支援にも着手していきたいと考えています。

EDIXはワクワクする場、教育長がワクワクすれば校長、教師にも伝わって、子供たちのためになる

EDIXにはこれまで何回も参加しています。今年も伺う予定です。そこには先端の教育環境とか最新コンテンツが並んで、まさに日本一なんですよね。あそこに行けばすべてが揃って見られるわけです。時間を忘れるあのワクワク感っていうのは本当にたまらないですね。

そういうところになぜ逆に行かないんだろうと、私には理解できないんですよ。あれほどワクワクする場になぜ出向かないんだろうと。

教育長がワクワクすれば、校長に伝わるはずです。「いいところだから、ぜひ少し時間を取って見てみなさいよ」となるはずです。

さらに校長がワクワクすれば、教師にも伝わるし、結果的に子供たちにもそれは伝わるはずです。まずは教育長自らが足を運んで、最先端ってどうなっているのだろうか?ということを、生で体験することが重要というのは、行くたびに痛感します。

EDIXへ行き、その場で触って、生で見て、五感で感じることがいかに大事かということをわかってほしいです。子供たちのためにも。このワクワク感は多くの皆さんに足を運んでいただき、体験してほしいですね。

(前回のEDIX東京 [2021年5月]の様子)


日本の教育の未来

戸田市の教育だけでなく、文部科学省、中央教育審議会、経済産業省、総務省、内閣府などで様々な委員を歴任されている戸ヶ﨑氏に日本の教育の未来、これからしたいことを伺いました。

何と言ってもウェルビーイング(一人ひとりの多様な幸せ)の実現です。そのためにまずは何をやるべきかと言ったら、「個別最適な学びと協働的な学び」を真剣に展開すべきです。この言葉を知らない教師はいないと思いますが、ただそれを実現しているかと言われると、おそらくこのコロナ禍で遅遅として進まず、昔ながらの教師主導の授業がまた復活しているとも言われています。

「個別最適な学びと協働的な学び」により資質・能力の育成を図り、「持続可能な社会の創り手」の育成を目指して、「一人ひとりの多様な幸せ」を実現していくことが日本の教育の責務だと思っていますし、それを本気でやっていかないといけません。一部の教師だけとか、一部の教育委員会だけというのではなくて、日本中全国どこでも、やっていかなければなりません。

もう1つは、子供の学ぶワクワク感です。教科の学びが自分の設定した課題の解決に生きているという実感を味わうこと。「好き」になるとか、「夢中」になることが大事ですね。好きこそものの上手なれではないですが、努力は夢中に勝てません。義務は無邪気に勝てないんです。

黙っていても夢中になってしまうとか、どんどんのめり込んでしまうような、そういうものが学校の中で提供される必要があります。PCは意識されることなくマストアイテム化され、ワクワクする学びの中で、未知の問題に解決策を見いだせる「たくましい知性」を鍛えていってほしいと思っています。そして、自分とは異なる人々の考え方や感じ方を理解できる「しなやかな感性」をも育んでもらいたいです。そうした学びの環境が日本中どこにでもあるようになってもらいたいです。


パソコン教室の有効活用を

今まであった旧式のパソコン室は、1人1台環境だからもう役目を終えているわけです。でも社会の変化に伴ってハイスペックのパソコン環境がある部屋、いわゆる第2世代のパソコン室というのを作っていかないといけないと私は思っています。

全国的には少子高齢化の中で、子供の数が減って、空き教室が増えていますよね。あのパソコン室の中に、それこそ、地域と一体となってハイスペックのものを入れてもらうとか。1人1台の端末はスペックが限られているので、それは文房具として使う。ハイスペックなパソコン環境があれば、動画編集、CGなどクリエイティブなSTEAM教育の基盤づくりができますよね。そういう教室が日本中でできてくると、今後の学びに関しても、いい影響があると思っています。

 

 

■プロフィール
戸ヶ﨑 勤(とがさきつとむ)
平成27年4月1日~戸田市教育委員会教育長
内閣官房 教育再生実行会議 技術革新WG有識者会議委員
内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術 学習支援技術分科会委員
総務省・文科省・経産省 未来の学びコンソーシアム運営協議会委員
経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員
文部科学省 全国的な学力調査に関する専門家会議委員/教育データの利活用に関する有識者会議
中央教育審議会 第3期教育振興基本計画部会委員/初等中等教育分科会臨時委員/「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会委員/「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けた調査研究協力者会議/個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会/初等中等教育分科会 教育課程部会委員/初等中等教育分科会 教員養成部会委員/教員養成部会教員免許更新制検証小委員会委員/教員養成のフラッグシップ大学検討WG委員
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)「教育・人材育成WG」委員 など

 


EDIXとは
学校・教育機関、企業の人事・研修部門など教育に関わる方に向けた日本最大の展示会です。
年に2回、東京・関西で開催をしています。
 

来場に興味のある方は下記から詳細をご確認ください。